「〈コスパ〉なんてものとは無関係な世界だから。」(山田監督)「下町で暮らす人々を見習って、家族を超えた人とのつながりを持って生きていきたいと、改めて感じました。」(吉永さん)

自分にできる小さなこと

山田 今回は隅田川沿いの下町が舞台。福江さんの息子は生まれ育った町を出て、高層ビルの中で働いている。無機的な世界ですよね。そこでいろいろうまくいかないことがあって、久しぶりに隅田川を渡って母親に会いに行き、畳に座ってもう一度人生を考える。

つらいこともあるけれど、きっとこの町でおふくろや娘と一緒にいれば回復できるに違いない、という気持ちになっていくんだろうね。戻ってきたら「お帰り。お茶でも飲むかい?」と言ってくれるのが、家庭だし、肉親でしょう。

吉永 私は東京生まれとはいえ山の手なので、あんなにご近所の方々が自由に出入りするような家は新鮮で。実際の足袋屋さんで撮影したのですが、こぢんまりした温もりのある風情が、やっぱりいいなと思いました。

山田 息子は、この町はイヤだと思って出ていったのに、輪が一回転してスタート地点に戻ってくるわけでしょう。

吉永 はい。

山田 この一回転を英語で何と言うかというと、「レボリューション」なんですよ。

吉永 へぇ、そうですか!

山田 彼はまさにレボリューションを行って、この場所の値打ちを発見する。経済最優先の世界と、母親が近所の仲間たちとボランティアでホームレスを支援する世界は、まさに対極でね。〈コスパ〉なんてものとは無関係な世界だから。コスパとかタイパ(タイムパフォーマンス)とかいうのはイヤな言葉だね。

吉永 下町で暮らす人々を見習って、家族を超えた人とのつながりを持って生きていきたいと、改めて感じました。今の時代、難しいことかもしれません。だけど、やらなくてはいけない。

山田 僕もそう思う。