専門診療が染みついている

樋口 現代は高齢社会ですから、当然、そういう総合的な視点を持つお医者さんはたくさんいるということですね?

和田 それが、残念ながらそうではないのです。イギリスではジェネラル・プラクティショナーという総合診療医と、ひとつの臓器を診る専門家がいて、まず総合診療医にかからないと、専門の診療科にかかれないしくみになっています。総合診療医と専門診療科の医者は、ちょうど半々くらいの割合です。日本でも、かかりつけ医というのがいますが、その役割を果たせていません。

和田「日本は世界トップレベルの超高齢社会になっているのに、いまだに専門診療科の医者ばかりを育てているんです」(写真提供:Photo AC)

総合診療医は増えてきたとはいえまだ数は少なく、相変わらず専門の診療が広く行われています。板橋区にある東京都健康長寿医療センターですら、高齢者の専門病院と言いながら臓器別診療なんです。

専門診療科はますます専門化し、診療科ごとの縄張り意識や縦割りは、どんどん強くなっています。私はこんな調子で、言いたいことを本に書いたり発言したりしていますが、医者向けのサイトでぼろくそに私を批判する人の多くが「専門外のくせに、おれたちの仕事に口を出すな」という言い分です。もう、骨の髄まで専門診療が染みついているのです。

日本は世界トップレベルの超高齢社会になっているのに、いまだに専門診療科の医者ばかりを育てているんです。医療は超高齢社会対応にはなっていない。そのしわ寄せを受けているのが、当時者である高齢者です。

樋口 医者は勉強しなくても免許は一生涯有効なわけですが、専門診療科の医者が3年間くらい、有給でもいいから、総合診療を学べるトレーニングの期間を設けたらいいと思いますね。

和田 私も同感です。