イラスト:山本祐司
今や葬儀や納骨の方法も多様化し、弔い方の選択肢が増えています。しかし、たとえ故人の遺志を尊重して執り行ったとしても、さまざまな弊害もあるようで……(取材・文=島内晴美 イラスト:山本祐司)

「葬式はするな」「墓は買うな」と言い残して

肺がんの告知を受けて、たった半年ほどの闘病で逝ってしまった夫の最期の願いは、「大好きな海へ散骨してほしい」というものだった。サキさん(60歳)夫婦に子どもはなく、夫の実家の墓に入るか、新しく墓所を買うかという話の中で出てきた結論だった。

「お墓の話なんてしたくはなかったけど、余命3ヵ月なんて言われて、夫の気持ちを聞いておかなくちゃと切羽詰まっていましたから」

死期を悟った夫は、遺されるサキさんに負担をかけたくないという一心だったのだろう。「葬式はするな」「墓は買うな」と言い残して逝った。

「知り合いの知り合いに葬儀業者さんがいて、葬式なし、墓なしで夫を送りたいと相談しました。直葬というやり方があると聞いて、自宅に安置していた夫を直接荼毘に付すことにしたのです」

直葬とは、祭壇なし、セレモニーなしで、自宅や安置場から直接火葬場に搬送すること。参列者は少数のはずだから斎場に部屋は用意しない。そのかわり、炉の前で読経してもらうこともできるし、花を棺に入れることも可能だと言われた。きちんと最後のお別れができるなら、直葬でいいと思ったサキさんは、知り合いの僧侶に頼んで炉の前でお経だけはあげてもらうことにした。

「夫と私の兄弟以外にはだれにもご案内はしなかったのですが、友人が聞いて斎場に駆けつけてくれて……。当日、斎場に30人以上の参列者が集まってしまったんです」

部屋を予約していなかったため、廊下に人があふれた。炉の前のお見送りも時間が限られているため、てんやわんやだったようだ。葬儀業者も焦ってしまい、何とか広めのスペースが取れる炉に変更してくれたという。

「葬儀業者さんの機転でお花を追加してもらったり、20人ほどで食事のできるお店を急遽探してもらったり、何とかその場をしのぎました」