敢然と断捨離を実行

確かにそうです。年を取ったら、むしろ、荷物は捨てるべきです。多くの高齢者が、終活で、荷物の整理に苦労します。「老後の家」なのに、荷物が入るように広い部屋を買うなんて、無理、無駄、方向性が真逆、本末転倒、と栄子さんはばっさり。

でもまだアラ還なのに、終活は早すぎでは?というモトザワの呟きには、栄子さんはびしっと反論しました。「60代から終活は始めないと。70歳を過ぎたら断捨離は無理。体がきかなくなるし、捨てる胆力、気力がなくなるし」。高齢者の実態を長年見てきたプロに言われると、ぐさりと刺さります。

そこで栄子さんは、マンション購入を決めたら、断捨離を始めました。「すっごい捨てました」。こだわって買った大きな箪笥や本棚はリサイクル店へ。数千円でしたが引き取ってもらえました。誰かが使ってくれるのなら心残りはありません。

『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)

集めていた食器も、多過ぎて使わないものは捨て、高級品だからとしまい込んでいた皿やグラスは、普段使いするように箱から出しました。本もほとんど廃棄。「だって何十年と読まなかったんだから、もう読まないでしょ」。洋服も整理して、捨てるかリサイクルしました。

ブランドものの高かった服は、デザインが古くても、いま普段着で着ています。1、2シーズン着て気が済んだら処分します。和服は、二束三文でしか売れないので、古いものはゴミに。高価な着物は、友人との飲み会や観劇時に惜しげなくどんどん着ています。着倒して、汚れたら捨てるつもりです。

実は、新居に引っ越した少し後、栄子さんの母が亡くなりました。母の遺品整理のついでに、栄子さんは実家に置いてあった自分の荷物も処分しました。子ども時代の工作だの、思い出の品だの、「全捨て」。

古い写真も、数枚だけ手元に残し、中学と高校のアルバム以外は処分しました。もったいなくない?と聞いたモトザワに、「ここ10年、見たことないのよ。この先、見ることがあると思う?」でも、暇を持て余した老後に、昔の写真を繰って思い出に浸る、なんて機会があるかも?

「だって、いつかは捨てないといけないんだから。写真なんて、私が死んだらただのゴミよ」。敢然と断捨離を実行した結果、1DKの新居に荷物は入りました。なのに栄子さんは、まだ断捨離は終わっていない、まだ服を捨てられる、もっともっと捨てたい、とやる気満々です。

〈後編に続く〉

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