いつもの通りに判断を重ねていけば道はひらかれる

パリの歴史と密接な関係にある地下空間は、パリの人たちを探索に駆り立ててきた。そこを探索する人たちのことをカタフィール(地下愛好家)と呼ぶ。

『タバコの煙、旅の記憶』(著:丸山ゴンザレス/産業編集センター)

事前に入念な準備をするのが俺のスタイルだが、パリの取材を始めるにあたって案内をしてくれるようなカタフィールとのコンタクトは取れていなかった。

ぶっつけ本番の取材というのは、このようなことは付きものである。現場に来るまでどうにもならない。この地下探索のどん詰まり感は、その状況を実にわかりやすく表している。

何せ足の下には常に地下空間が広がっていて、空間の場所はわかっているのに入ることができないのだ。もどかしいというよりも諦めたりやる気を失ったりしないようにメンタルコントロールが重要なのである。

何日も地下に潜れるか、潜れないかで行ったり来たりが繰り返し、ストレスが溜まっていった。

駆け出しの頃だったら、ここで問題を大きくしそうなものだが、すでに40代後半に入ってきた俺にとっては、これまでの経験で対処できることである。どんな状況にあっても気持ちの昂りを抑えて目の前の現実とこれまでにインプットしてきた情報を元にしていつもの通りに判断を重ねていけば、多少なりとも道はひらかれると思う。

実際、パリの地下への道については、様々な偶然が重なって突如として潜ることができたのである。