《井上陽水トリビュート》V.A.

数々の名曲と卓越したセンスを軸に

井上陽水の音楽活動50周年を記念したトリビュートアルバム《井上陽水トリビュート》がリリースされた。1969年に「アンドレ・カンドレ」名義でデビューし、72年に「井上陽水」としての活動をスタート。現在に至るまで数々の名曲を発表してきた。

トリビュート盤は、彼を敬愛する全15組のアーティストが楽曲をカバーし、その魅力を再解釈した一枚となっている。収録曲から感じるのは、時を経ても色褪せない井上陽水のメロディメーカーとしての才能と、時代に応じてスタイルを変え多様なヒット曲を生み出してきた稀有なセンスだ。

70年代のフォークブームの中で頭角を現した井上陽水。そんな初期の代表曲〈夢の中へ〉は槇原敬之がカラフルにアレンジ、〈傘がない〉は実力派ロックバンドのACIDMAN(アシッドマン)が壮大な演奏を聴かせている。

80年代には、安全地帯〈ワインレッドの心〉や中森明菜〈飾りじゃないのよ涙は〉など作家として提供した楽曲がヒット。トリビュート盤では、〈ワインレッドの心〉を椎名林檎が妖艶に歌い上げている。

90年代以降になると、ロックやラテンなど幅広い音楽性を取り入れ、さまざまな曲調のヒット曲を生み出してきた。〈Make-up Shadow〉はネット発の新人ヨルシカがカバー、自身最大のセールスとなった〈少年時代〉は宇多田ヒカルが繊細な歌声を響かせている。収録曲の中で最も新しいのは、ウルフルズがカバーした〈女神〉だ。

ほかにも、井上陽水と同じくデビュー50周年を迎えた細野晴臣や、福山雅治、斉藤和義といった日本を代表するシンガー・ソングライターたち。さらには、ラッパーのKREVAや若手ロックバンドのSIX LOUNGEまで世代やジャンルを超えた面々が参加している。

2019年も全国ツアーを開催し、精力的な活動を続けている井上陽水は、これからも音楽界の第一線で存在感を放ち続けるはずだ。

《井上陽水トリビュート》
V.A.
ユニバーサル 3000円

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King Gnu《CEREMONY》

 

フックの強い言葉と旋律が耳に残る楽曲

その《井上陽水トリビュート》に〈飾りじゃないのよ 涙は〉のカバーで参加している4 人組バンドKing Gnu(キングヌー)が、3作目となるアルバム《CEREMONY》をリリースした。

テレビドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』の主題歌に起用された〈白日〉がロングヒットし、『NHK紅白歌合戦』出場も実現して一躍ブレイクを果たした彼ら。中心人物の常田大希(つねただいき)(ボーカル/ギター)は東京藝術大学でチェロを専攻、井口理(さとる)(ボーカル/キーボード)は同じく声楽を専攻していたという音楽エリート集団だ。

その魅力は、確かな教養に基づく洗練された美学と、荒々しくふてぶてしいロックバンドとしての佇まいが共存しているところにある。一度聴いたら頭から離れないメロディ、井口の色気あるハイトーンボイスも人気の所以だ。

新作には〈白日〉を筆頭に、テニスプレーヤーの大坂なおみが出演したANAのCMソングで、スケール感のあるハードロックナンバー〈飛行艇〉や、哀愁あふれるメロディが印象的なブルボンのCMソング〈傘〉など、タイアップ曲も多く収録。そのどれもが、フックの強い言葉と旋律が耳に残る楽曲だ。

常田は以前から井上陽水の影響を公言し、自身のルーツとしている60年代や70年代のロックとともに昭和の歌謡曲をフェイバリットにあげている。一方で勢喜遊(せきゆう)(ドラム)や新井和輝(ベース)も含めたメンバー全員がジャズやブラック・ミュージックの素養を持ち、海外の最新の潮流に刺激を受けつつ先鋭的な音楽実験を繰り広げてきたバンドでもある。

歌謡曲のエッセンスを受け継ぎつつ、決して過去の焼き直しには陥らない。さまざまな音楽スタイルのハイブリッドとして形にする卓越したセンスがKing Gnuのヒットの理由と言えるかもしれない。

《CEREMONY》
King Gnu
ソニー 2900円