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いつまでも長生きしてほしい。しかし、親が長生きすればするほど、支える側の子どもも年をとるという現実がある。終わりの見えない長期介護のなかで、思いもよらない事態に見舞われた人たちを取材した。ナツミさんは、妻に先立たれた義父に親子ほど年の離れたガールフレンドができ――(取材・文=島内晴美)

「ママ、おじいちゃまのマンションに…」

年老いてから妻に先立たれると男は弱いと言われるが、ナツミさん(50歳)の義父(94歳)は例外だった。昔からおしゃれでダンディだったが、独り身になっても社交的で、経済団体のパーティーやコンサートにも顔を出す人気者だった。

「大学生になった私の子どもたちもおじいちゃまが大好きで、一緒に遊びに出かけたりすることもありました。3年前に義母を亡くして寂しいだろうけど、子どもたちも近くにいるので、家族で集まる機会を増やして支えていこうとしていたところでした」

そんなある日、学校帰りに義父の家に寄ったナツミさんの娘が、家に帰るなり「ママ、おじいちゃまのマンションに知らない女の人がいたわよ」と言った。「そうね、お年の割にもてるからね。ガールフレンドができたのかしらね」とほほえましい気持ちで答えたナツミさんだが、これが怒濤の“バトル”の始まりだった。

「その人は当時、私と同い年の44歳で独身。どこかのギャラリーでたまたま出会って意気投合、付き合うことにしたそうで、ほどなく義父のマンションで同居することになったとか。びっくりですよね」

娘である義姉、息子であるナツミさんの夫よりも年下のガールフレンドの登場に、だれもが思考停止に陥った。

「義父もうれしそうだし、子どもがとやかく言う問題でもない。義父が元気で楽しく暮らしてくれれば……と思っていました」

しかしバトルは、まず義父の「彼女が籍を入れてほしいと言うんだよ。遺族年金がほしいんだって」という言葉から始まった。

「信じられない思いでした。私と同い年で“遺族年金”だなんて! そんな発想すらしたことがなかったので、ちょっと不気味でした。結婚となれば、家族としての付き合いもあるし、一度みんなで会わなきゃということになりました」

一同が集まったレストランに現れた彼女は、どこから見ても普通のおばさん。手練手管で老人を籠絡するプロっぽい女性を想像していたナツミさんは、ますます違和感を抱いたという。