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親の長生きを願い、老後の暮らしを支える人は多い。一方で、幼い頃から親の暴言や自己中心的な態度に傷つけられてきた娘たちは、複雑な心境だ。自立したり結婚したりして、嫌いな母親と距離をとっていたのに、介護が必要になった母にかかわらざるをえないケースもある。トラウマを引きずる人、やむをえず世話をする人などそれぞれの思いを追った(取材・文:石川結貴)

コロナの影響で、住民票を移して介護(美沙さんの場合)

「母を一言で表すと、ずるい人ですね」と話すのは、東京都在住の会社員・美沙さん(50歳)だ。子どものいない美沙さん夫婦が母(75歳)と暮らすようになったのは1年半前、想定外のことが発端だった。

「母は九州で妹一家と暮らしていたんです。5年前に父が亡くなった際、私は母と妹に自分の相続分を譲りました。あとは妹に任せれば安心と思っていたら、だんだん折り合いが悪くなった。母に電話をするたびに『お金をせびられている』『口もきいてもらえない』と、妹の非情さを訴えられました」

母の気晴らしのためにと、美沙さんは年に一、二度自宅に招いていた。ところが母が浴室で転倒、大腿骨を骨折する。入院時の検査で骨粗しょう症や貧血も判明し、退院まで半年近くを要した。

当初は「回復すれば九州に帰そう」と考えていたが、折悪しくコロナの感染拡大がはじまる。母と妹との軋轢や地方への移動のむずかしさを考え、しばらくの間、自宅で世話することにした。