誰かと一対一で親しくすること=恋愛ではない

「嫌いなんだよ。誰狙いとか、誰が好みとか。可愛いとか可愛くないとか。誰かのことをものみたいに言うの。そういうこと言う人って、きっと僕のこと……。そんなの窮屈すぎる。もう放っておいてよ」

このシーンが、とても胸に来た。翔の言葉には、ふたつのものすごく重要な観点がある。

『死にそうだけど生きてます』(著:ヒオカ/CCCメディアハウス)

1つ目は、誰かと1対1で親しくすること=恋愛ではない、ということ。「男女の友情は成立するか論争」に代表されるように、この社会ではふたりで親しい人は恋愛関係にあるという決めつけが強固に存在する。

しかし親密な関係には色んな種類がある。恋愛至上主義は、なんでもかんでも恋愛にはめこみ、恋愛以外の関係は恋愛以下だ、と決めつける。その決めつけが本当に息苦しいと感じる。誠は息子を思うばかり、翔に思い人ができたのだと、勇み足になってしまった。それが結果的に翔を苦しめてしまったのだ。

そして、もうひとつは、人を“もの扱い”することへの嫌悪感を表明していることだ。翔の「嫌いなんだよ。誰狙いとか、誰が好みとか。可愛いとか可愛くないとか。誰かのことをものみたいに言うの」という発言には伏線がある。翔が家の外に出ようとした時、学校でのあるシーンがフラッシュバックする。男子が黒板に「A組女子ランキング」と書き、この子は顔がいい、胸がないなどと笑いながら話しているのだ。ほかにも、誰が好み?タイプ?という質問をされた記憶も蘇る。