広がり始める疑米論

「台湾で『米国はどうして関税を台湾にかけるのか』という議論が起きている。中国も、こうした疑米論を操作して、台湾経済界に働きかけていることが報告されている」=興梠氏

「頼氏は、言わば米中の大国間ゲームの中で、米国に『台湾は重要だ』と働きかけようとしている。しかし、議会の反対によって、なかなかやりたいことができていない」=小原氏

飯塚トランプ氏の米国第一主義の政策に対し、台湾では「米国は本当に信用できるのか」という議論が起きています。経済でも、安全保障でも、米国の利益を優先し、台湾を都合よく扱うのではないか。いわゆる「疑米論」の広がりは、頼氏の立場を苦しくしています。台湾は先端半導体の製造で知られますが、トランプ氏は「台湾が半導体ビジネスを奪った」と不満を示しています。このため、世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、米国内に先端半導体の工場を増設することになりました。

頼氏は、中国と向き合う時の後ろ盾として、米国との関係を大切にしたい考えですが、国民党は「親米が過ぎるのではないか」「虎の子の半導体を米国に渡すのか」と批判しています。トランプ氏の言動が、足元が盤石ではない頼氏を更に苦しめています。立場の弱い国や地域を都合よく扱うことは、長い目で見れば、米国の同伴者を失って損をすると思いますが、トランプ氏は「それでもよい」と割り切って考えているように見えます。

台湾・頼総統「粘り強く中国の脅威に対抗」©️日本テレビ
台湾・頼総統「粘り強く中国の脅威に対抗」©️日本テレビ

国際秩序の大変動が起きており、台湾に象徴的に表れています。いわゆるグローバル・サウスの国々の中でも疑米論、さらには嫌米論が広がるでしょう。中国を利するだけです。民主主義陣営は国際秩序を立て直せるのかどうか。暗雲が押し寄せています。

吉田台湾の人たちは今、ウクライナの置かれている状況を注視していると思います。現状を維持したい台湾に対し、中国は軍事的圧力を強めています。しかし、頼みの米国は自らの利益を優先し、今後は米中のディール次第という不安定な状況です。台湾有事は日本有事と言われます。「米国は本当に信頼できるのか」という疑米論の広がりは、日本も無関係ではなく、注意しなければなりません。

やはり、米国の態度が大事だと思います。トランプ氏の言動はその時々で変化します。米国が揺れ、同盟国や同志国に不安が広がると、中国は「チャンスだ」と思うでしょう。台湾は自由と民主主義の価値観を共有する大切な地域です。TSMCは熊本に進出しており、日本の半導体産業の復活にも欠かせません。台湾の置かれている状況にもっと関心を払うべきです。

解説者のプロフィール

飯塚恵子/いいづか・けいこ
読売新聞編集委員

東京都出身。上智大学外国語学部英語学科卒業。1987年読売新聞社入社。 政治部次長、 論説委員、アメリカ総局長、国際部長などを経て現職。

 

吉田清久 読売新聞編集委員

吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員

1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。

 
 

提供:読売新聞