
見て見ぬふりは限界
「国際法に基づく秩序の維持を各国で共有することはますます難しくなっている。バランス・オブ・パワー(勢力均衡)に基づく力の世界を前提に考えなければならない」=神保氏
「米国本土は攻撃されないと思っていたから、米国は世界各地に軍隊を派遣してきた。米国が自らの周辺から中国の影響力を排除したいと思うことを中国は警戒している」=小原氏
伊藤飯塚さんの言われた通り、そういう米国に対して、日本をはじめとする同盟国はどう向き合うのか、世界の秩序をどう見いだすのかということが問われています。かつてのような世界に戻ることはないのでしょうか。
飯塚カナダのカーニー首相は1月のダボス会議で、米国が築いてきた戦後の国際秩序の崩壊に言及する演説を行いました。カーニー氏は「『ルールに基づく国際秩序』が、なお機能しているかのように唱えるのをやめよう。現状は大国間の競争が激化する時代であり、経済的な威圧を武器として使いながら、自らの利益を追求している時代なのだ」と語りかけました。
私はその後、米国に取材に行く機会があったのですが、「見て見ぬふりはもうやめよう」と訴えるカーニー氏の演説は、米国でも党派を超えて大きな反響を呼んでいました。かつて冷戦終結の節目に、米国の政治学者フランシス・フクヤマ氏は『歴史の終わり』という著作を発表しました。カーニー氏の演説は、それに匹敵するような歴史の転換期を明確に指摘したものとして受け止められていました。『歴史の終わり』は民主主義陣営の勝利をうたったわけですが、その中心である米国をもう頼ることはできなくなったという切実な思いの表明だからです。
伊藤カーニー氏は、米国に国力は及ばなくても、法の支配や自由貿易を大切にするミドルパワーの国々が連携することで、転換期を乗り越えることを訴えました。日本も、オーストラリアや韓国、欧州のような国々と連携を深めていますし、さらに、いわゆるグローバルサウスの中でもインドやインドネシアのような国々とは良好な関係を維持しようとしています。しかし、中国、北朝鮮、ロシアの脅威と向き合う日本は、米国との同盟関係を抜きにして、東アジアの安全を守ることはできません。どのようにして日本の国益を確保していくべきでしょうか。
飯塚そこは忘れてはならないと思います。日米同盟は日本を守るためだけではなく、米国の利益にも資することをトランプ氏に繰り返し理解してもらう必要があります。日本も自ら防衛費の増額を前倒しして進めています。2月の衆院選で大勝した高市首相は3月に訪米します。米国と協力して外交と安全保障を推進できる体制が整ったことを伝えなければなりません。
一方で、米国がこれまでとは異なる様相を示し始めたことは明確になっています。日本は日米同盟を基軸にしながらも、より自律的に考える必要があります。米国の同盟国の中でも、日本はリーダーシップをとるべき立場にあります。カーニー氏が述べたように、それでも筋が通らないことについて、高市氏はトランプ氏にきちんと指摘するべきです。

飯塚恵子/いいづか・けいこ
読売新聞編集委員
東京都出身。上智大学外国語学部英語学科卒業。1987年読売新聞社入社。 政治部次長、 論説委員、アメリカ総局長、国際部長などを経て現職。

伊藤徹也/いとう・てつや
調査研究本部主任研究員
広島県出身。京都大学総合人間学部国際文化学科卒業。1998年読売新聞社入社。浦和支局、政治部次長などを経て現職