今年最も注目すべき洋楽界の最先端
グラミー賞発表まで数日という、2020年の初め。ビリー・アイリッシュのような目覚ましい新人が登場した昨年の洋楽界を振り返ってみた。
18歳になったばかりのビリーが2019年に誕生した世界を代表する新人アーティストだったとしたら、年間を通して最もヒットした曲は何だったのだろうか?
17年にデビューEP〈ブルーム〉が全世界で1億2000万回のストリーミング再生を記録したルイス・キャパルディ。昨年、自作曲の〈サムワン・ユー・ラヴド〉が全英シングル・チャートで7週連続1位を記録。これがイギリスで19年に最も売れたシングル曲になった。
スコットランド出身の23歳のルイスが昨年出したデビュー・アルバム《ディヴァインリー・アンインスパイアード・トゥ・ア・ヘリッシュ・エクステント》は、これまた6週間全英チャートの1位に輝いて、年間アルバム売り上げの第2位に位置している。1位は歴史に残る大記録を更新中のミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』のサウンドトラックだから文句のつけようがない。
米英のステージでも人気で、日本では18年のサマー・フェス出演に続いて、今年1月9日にはライヴ・ハウスで単独公演が行われている。何といっても大ヒットを記録した〈サムワン・ユー・ラヴド〉が素晴らしい。
この曲は昨年末に全米シングル・チャートで1位を3週間獲得しているし、もちろんグラミー賞でも「年間最優秀楽曲賞」にノミネートされている。結果は1月27日(日本時間)を楽しみに待つとして、ぜひ一度このアルバムを聴いていただきたいし、できればYouTubeで〈サムワン・ユー・ラヴド〉のMVをチェックしてみてほしい。
〔編集部注:グラミー賞の年間最優秀楽曲賞はビリー・アイリッシュの〈Bad Guy〉が受賞〕
ルイス本人がラヴソングとして歌っている映像もあるけれど、ここまでの大ヒットとなったのは臓器移植の啓発キャンペーンとして作られた映像があるからで、妻を失った中年の男性が、幼い女の子の母親に移植された妻の心臓の音を聴き続けるドラマ仕立ての映像が切ない。
ほかの楽曲も、それぞれの心情が等身大で迫ってくるわかりやすさと、サム・スミスやエド・シーランが絶賛する声の素晴らしさで、たちまち魅了される人が出てくることだろう。
ルイス・キャパルディ
ユニバーサル 2500円
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普遍性のある歌詞と、解放的なエネルギー
もう一人は、一昨年あたりから台風の目のように話題になっているホールジーという女性だ。本名のASHLEYと、ニューヨークのブルックリン区の地下鉄の駅名HALSEY STREETのアナグラムだそうで、父や母が聴いていたラップやオルタナ・ロックで育ち、レディー・ガガやエイミー・ワインハウス、そして映画などのカルチャーに影響を受けたという。世界の最先端であるニューヨークを産湯にして育ってきた人だ。
尖ったヒップなアーティスト性を持ちながら、声がフェミニンで柔らかく親しみやすいからだろう。ジャスティン・ビーバーやポスト・マローン、おまけに韓国のヒップホップ・グループのBTSなど、多くのアーティストとコラボ。なかでもホールジーが世界的にブレイクしたのは、ザ・チェインスモーカーズと歌った〈クローサー〉(2016年)だった。
そのホールジーのアルバムとしては3枚目になる《マニック》は自身でも積極的に歌作りに参加。まさにこれが今のポップスという、キャッチーでありながら耳に心地よいサウンドとハスキーで魅力的な声で、たとえば全米1位を記録した曲〈ウィズアウト・ミー〉や、最新ヒットの〈グレイヴヤード〉のように、私のような年が離れた同性のファンが聴いても楽しめる普遍性のある歌詞と、解放的なエネルギーを持っている。
やっぱりポップスは常に最先端が楽しい。
ホールジー
ユニバーサル 2200円