エスペランサ
12リトル・スペルズ
2500円
新境地で見えた別の顔
エスペランサは、一作ごとに聴く者を驚かせてくれる。メジャー第2作の《チェンバー・ミュージック・ソサイエティ》で室内楽に取り組み、ジャスティン・ビーバーらを抑えて2010年度グラミー賞最優秀新人賞をジャズ界で初めて獲得。オバマ前大統領夫妻もお気に入りの彼女は、09年のノーベル平和賞授賞式で演奏した。その頃は歌いながらコントラバスを演奏するスタイルだったが、最近はより革新的になり、コンセプトや曲のコード進行の斬新さが目立つようになっている。
そのエスペランサの7作目にあたる《12リトル・スペルズ》は、音楽による癒やしの力を追求したものになった。12曲(+4曲のボーナス・トラック)それぞれのタイトルが身体の部位を表し、おまじない(呪文)も添えられている。ユニークな本作が生まれたのは、彼女がストレスに苛まれた時期に代替医療やレイキ・ヒーリング、音楽療法に出会い、音楽の癒やしの力に目覚めたことがきっかけだった。今まで以上に美しいメロディと、よりシンプルなサウンドにのせた深い歌詞も印象的だ。エスペランサは次のように語る。
「音楽、サウンドがもつ波動が、身体に良い影響を与えると信じていて、そのような音楽を私も作りたかった。聴いた方の生理機能が少しでも改善するといいのですが」
セクシーで楽しげな〈サング〉が腰を、父親の不在を嘆く〈オール・リムス・アー〉が腕を表す。〈ダンシング・ジ・アニマル〉では精神にフォーカス。音楽のもつ力が本格的に研究され始めた21世紀、今後もエスペランサの動向から目が離せない。
川嶋哲郎
ウォーターソング
3000円
日本を代表するサックス奏者、川嶋哲郎の新作《ウォーターソング》が、木管オーケストラをバックに朗々と歌う内容で、美しい。大人数による木管のアレンジを初めて手がけ、プロデュースも川嶋自身が担当。曲調が今までの傾向と変わっているが、それは本作では大自然の描写を主眼としたからだという。
例えば〈ホライゾン〉では、木管の重なりが清い流れを作ると、その上で川嶋のサックスが生命をことほいで明朗に演奏する。木管のアレンジについては今後も前進することと思うが、大編成の作品に挑んだこと、また洗足学園音楽大学の門下生ほか若者たちが嬉々として参加したことが、サウンドに新鮮さを与えた。4曲からなる組曲〈スイート ソウ〉が白眉だが、川嶋にとっても新たな地平を開くものとなった。
類家心平クァルテット
レディース ブルース
1852円
類家心平は日本ジャズ界きっての先鋭的なトランペッター。RS5pb (類家心平5ピース・バンド)で繰り出す近未来的なサウンドで知られている。しかし、同時に “類家心平クァルテット”として、スタンダードなジャズも演奏してきた。その“アコースティック類家”が、このたび南青山のライブハウス、BODY&SOULで二夜にわたってライヴ・レコーディングを行い、《レディース ブルース》を完成させた。
このアルバムは、ブルージーな曲が多く収録されている。ローランド・カーク作曲のタイトル曲は、ニューオーリンズの雰囲気いっぱいに、プランジャーミュートを用いて蠱惑的に演奏。〈ア・ラヴリー・ウェイ・トゥ・スペンド・アン・イヴニング〉では、切々と語る。その行間に広がる想い、男の悲しさと素直な可愛さ。そういったものがサウンドから伝わってきて、今までに知らなかった彼のもうひとつの顔と出逢うようだった。類家心平のリリカルな側面を存分に楽しみたい。