ありもしないカフカの遺稿を舞台化
劇団ナイロン100℃を主宰し、劇団外も含めて多彩な作品を創り続けている劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)。そのKERAが、神奈川芸術劇場と初めてタッグを組み、新作を上演する。昨年のナイロン100℃公演『修道女たち』以来、約1年ぶりの新作だ。空間を自在に変えられる劇場特性を生かすべく選ばれた題材は、フランツ・カフカ。自身、長年のファンで、これまでもカフカの人生を“半分捏造”した評伝劇『カフカズ・ディック』(2001年)、小説をコラージュした『世田谷カフカ』(09年)を発表している。
今回KERAは、ほかの誰も思いつかないだろうユニークなアイデアを試みる。それは、カフカの未完の長編小説『失踪者』『審判』『城』に続く「第4の長編小説がもし発見されたら!? そして、それを舞台にするとしたら!?」というもの。もちろん実際には発見されていないから、カフカが死を前に「書いたかもしれない」架空の長編を舞台化することになる。……つまり“捏造”だ。
発掘されていない以上読めるはずがない。故に私はまだこの小説を未読だ。きっと前例に漏れず、欠損だらけだろうと憶測する。ラストシーンはあるのだろうか。全体がないのだからあるわけはないが」とKERAは楽しそうにコメントする。しかし彼のマジカルな想像力は、きっとカフカ以上のカフカ的世界を見せてくれるはずだ。それも彼らしく美しい繊細な空間で。
加えて、魅力的な出演者が揃った。主演はKERAと初タッグとなる多部未華子。どんな作品にもフラットで率直なアプローチで挑む、得がたい個性の持ち主だ。さらにKERA作品『陥没』での好演が忘れられない瀬戸康史、また音尾琢真、渡辺いっけい、麻実れい、村川絵梨、大倉孝二、犬山イヌコ、緒川たまきといった面々が持ち味を発揮するはず。そして振付の小野寺修二、音楽の鈴木光介といった強力スタッフが、マジックを仕上げてくれるだろう。
タイトルは、カフカが最後に過ごした療養所の名前だという。カフカ末期(まつご)の夢を、KERAがどう紡ぐのか……。期待が高まる。
~カフカ第4の長編~
11月7~24日/神奈川・KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
作・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ
振付/小野寺修二 音楽/鈴木光介
出演/多部未華子、瀬戸康史、音尾琢真、大倉孝二、村川絵梨、
谷川昭一朗、武谷公雄、吉増裕士、菊池明明、伊与勢我無、
犬山イヌコ、緒川たまき、渡辺いっけい、麻実れい ほか
☎0570・015・415(チケットかながわ) ※兵庫、北九州、豊橋公演あり
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福音のような脅しのような説教が波紋を広げ
ロシアの文豪・ゴーリキーの傑作で、1910年の日本初演以来、いまなお愛され続けている名戯曲が、新鋭・五戸真理枝の演出で上演される。新国立劇場が今秋から送る「個」と「全」、つまり「個人」と「集合体」を意味するシリーズ「ことぜん」の第1弾だ。
20世紀初頭のロシア。社会の底辺に暮らす人々が集う木賃宿では、さまざまな境遇の住民が泣き笑いの人生を送っていた。そこに巡礼のルカが現れ、ことあるごとに「説教」をするように。福音のような脅しのようなその説教は波紋を広げ、やがて事件が……。ルカ役の立川三貴、映画『火口のふたり』で話題の瀧内公美らが、人間讃歌を謳う。
どん底
10月3~20日/東京・新国立劇場 小劇場
作/マクシム・ゴーリキー 翻訳/安達紀子
演出/五戸真理枝
出演/立川三貴、廣田高志、高橋紀恵、瀧内公美ほか
☎03・5352・9999(新国立劇場ボックスオフィス)
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永井愛が『青鞜』編集部を描く
1911年創刊の『青鞜』は、明治、大正の封建的な家族制度が根強い時代に女性たちの覚醒を目指して発行され、センセーションを呼んだ雑誌だ。今回、二莵社の永井愛がその『青鞜』の「編集部」に焦点を当て、新作を発表する。編集部には、創刊の辞「元始、女性は太陽であった」で有名な平塚らいてう(朝倉あき)、後に編集発行人となった伊藤野枝(藤野涼子)のほか、保持研(やすもちよし)、尾竹紅吉(べによし)、山田わか、岩野清(きよ)ら10代、20代の若いスタッフが集まり、熱く議論を交わしていたが……。何かと“空気”を読み、言いたいことを飲み込みがちな現代日本の私たちに、前向きなパワーを届けてくれる作品になるはず。楽しみだ。
私たちは何も知らない
11月29日~12月22日/東京・東京芸術劇場 シアターウエスト
作・演出/永井愛
出演/朝倉あき、藤野涼子、大西礼芳、夏子、富山えり子、須藤蓮、枝元萌
☎03・3991・8872(二莵社)