教団財産は補償の原資

「解散命令が出るまでの間に、教団が別の団体に資金を移すのではないかということが懸念されている。解散請求を受けた教団の財産を保全する法案の成立が急がれる」=紀藤氏

「被害がここまで長く続いたことを、政治はなぜ許してしまったのか。親から身体的、心理的な虐待を受けていたと訴える『宗教2世』のケアも課題として残っている」=菅野氏

伊藤政府は2022年の臨時国会で、悪質な寄付の勧誘を防ぐ不当寄付勧誘防止法を、野党の意見も反映させて、成立させました。紀藤さんも菅野さんも防止法を評価されていますが、問題は残っていると指摘されました。

教団への解散命令請求まで進んだことを受け、国会では、教団の財産流出をどう防ぐのかについて、法整備の検討が行われています。教団の財産は被害者らへの補償の原資になりますが、解散命令の確定前に散逸する懸念があるためです。政府も被害者救済のための更なる取り組みは必要としており、与野党の議論を見守る姿勢を示しています。問題解決をアピールする政局的な動きも透けて見えますが、旧統一教会をめぐる問題は、信教の自由や財産権の保障など、憲法上の論点も含んでいます。被害者救済の視点から、迅速かつ慎重な検討が望まれます。

”統一教会”「解散命令請求」財産保全は?©️日本テレビ

吉田番組では時間の制約から、解散命令請求と教団の財産保全を中心に議論したようですが、教団と政治の関係も検証する必要があると思います。

旧統一教会は1954年に韓国で設立されました。その10年後に、日本で宗教法人の認証を受けます。教団が組織拡大のために取り組んだのが、政治運動と資金獲得活動でした。反共を掲げる政治団体も設立して、保守系の政治家との関係を深めます。自民党は所属国会議員を調査して、2022年9月末時点で180人に接点があったと公表しましたが、その後も五月雨式に新たな接点が明らかになりました。

世界平和統一家庭連合本部(東京・渋谷区)©️日本テレビ

信者らが高額な印鑑やつぼなどを販売する霊感商法の問題は、1980年代には社会問題化しており、教団への訴訟が相次ぐようになりました。大学では若者を勧誘するサークルが組織されるなどして、布教をめぐるトラブルも起きていました。そうした状況でも、政治家を利用したい教団と、選挙の応援を得たい政治家との関係は切れないまま続いてきたように見えます。

安倍氏銃撃事件をきっかけに、家庭崩壊を招いた高額献金の実態や、親の信仰に苦しむ「宗教2世」の問題に、再び注目が集まりました。自民党は所属国会議員に教団との決別を求めています。2022年10月に党の統治指針(ガバナンスコード)を改定して、都道府県連にも指針を順守するよう通知しました。教団とのなれ合いのような関係を本当にただすことはできるのか。政治家の責任は大きいと思います。

もちろん信教の自由は大切です。内心の自由を侵されてはなりません。しかし、その自由を逸脱して、家族や周りの人を苦しめることまで、許容しているとは思えません。解散命令請求は一つの節目になりますが、問題の幕引きではありません。見過ごされてきた被害者の救済について、これからも社会全体で考えていくべきです。

解説者のプロフィール

伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員

1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988 年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。

 

吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員

1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。

 

提供:読売新聞