民主主義の基盤を守る

「一人ひとりがリテラシー能力を高めることが大事だ。欧州の国々では、メディアリテラシーが教育の中に組み込まれている。個人の力を高めることが国の安全につながる」=廣瀬氏

「日本も偽情報戦に巻き込まれる可能性が高い。国際的な連携に加え、プラットフォーム事業者、メディア、大学のような研究機関も協力して、対抗していくことが重要だ」=山口氏

伊藤リテラシー能力を高める必要性は論を待ちません。ただ、私たちは技術革新の速さに追い付けず、大量に流れる偽情報に対抗する術を確立できていないように見えます。吉田さんは先ほど、不確かさに耐える力が重要だと指摘されました。それを養うためには、訓練されたジャーナリストを多く抱える新聞社やテレビ局のような報道機関の役割が、ますます重要になるのではないかと考えています。

私たちのような伝統メディアは、ファクトチェックを複数の人間で時間をかけて行います。もし、後で間違いが見つかれば、放置はしないで、裏付けを取り直して正しい情報を伝えます。番組を進行する右松健太キャスターはこの日の放送後、「ものすごく緊張しました」と話していました。偽情報から言論空間を守るという、報道機関の責任が最も問われるテーマだったためです。ウィズフェイクの時代だからこそ、組織ジャーナリズムの強みを生かせるのではないかと思います。

吉田民主主義の国家は、言論の自由や通信の自由を基盤とする、開かれた社会です。自由で開かれているがゆえに、自分たちが気づかないうちに、介入を受けていたりする危険をはらんでいます。伊藤さんの言われた通り、自分たちで公正な言論空間を守るという意識を忘れてはなりません。

権威主義の国家は、その隙を突くように情報戦を仕掛けてきます。世界の秩序が揺らぐ中、情報を「武器」にして、自らに有利な国際世論を作り出そうとする動きが各所で見られます。日本は情報戦への感度に鈍さが見られましたが、2022年に策定した国家安全保障戦略などで情報戦対策に政府全体で取り組むことを打ち出しました。日本は米国の同盟国として、中国とロシアの隣に位置します。情報戦においても最前線にいる自覚が必要です。

プラットフォーム事業者にも高い倫理観が求められていると思います。SNSは情報が行き交う重要なインフラになっており、その責任を自覚して偽情報対策に協力するべきです。生成AIについても、利用する場面を慎重に検討していくことが大切です。

拡散された日本の寿司チェーンのフェイク画像©️日本テレビ

伊藤選挙における偽情報対策も課題となっています。SNSの情報が投票行動に及ぼす影響について懸念されるようになったきっかけは、2016年の選挙でした。この年の米国の大統領選や、英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票で、有権者が特定の方向に誘導されたのではないかということが問題になりました。日本は今のところ、そうした干渉は確認されていませんが、対策は急務です。

2024年は、台湾の総統選や米国の大統領選をはじめ、世界の行方を占う選挙が多く実施されます。米国のバイデン大統領は2023年11月、中国の習近平国家主席との首脳会談で、2024年1月に行われる台湾の総統選に中国が介入しないようにクギを刺しました。民主主義においては、民意が選挙に正確に反映されることが大切です。そこに疑義が生じれば、発足した政権の統治の正当性は崩れてしまいますし、民主主義そのものへの信頼まで失われかねません。そうした事態は絶対に防がなければなりません。

解説者のプロフィール

伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員

1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988 年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。

 

吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員

1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。

 

提供:読売新聞