概要
旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。
偽情報をSNSで拡散させて、世論を揺さぶる情報戦が世界で激しさを増している。生成AIを利用して、偽画像、偽動画も容易に作成できるようになった。技術の進歩は、情報の真偽の判別を難しくしている。健全な言論空間をどのように守るのか。慶応大の廣瀬陽子教授、国際大の山口真一准教授を迎えた昨年11月8日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。
言論空間守る偽情報対策を
ウィズフェイクの時代
「相手国を揺るがすという意味で、偽情報の拡散は、戦場と同じくらい戦争の行方を左右する。ロシアは、疲れも見えるウクライナの人たちの心に付け込もうとしている」=廣瀬氏
「誰もが生成AIを使って、政治的な目的でも、いたずら目的でも、簡単に偽画像や偽動画を大量に作成して拡散できるようになった。世論工作の大衆化と呼べる状況だ」=山口氏
伊藤番組では、ロシアが偽動画を使ってウクライナの世論に揺さぶりをかけていると思われる事例や、パレスチナ自治区ガザにおける惨状を伝える写真がAIで生成されていたと疑われる事例を紹介しました。プロパガンダをはじめとする世論工作は、これまでも行われてきました。しかし、技術革新はものすごい速さで進んでおり、時代は大きな節目を迎えています。
生成AIの登場で、本物と見分けのつかない動画や画像を手軽に作成することができるようになりました。生成された偽情報は、一人ひとりのスマートフォンに直接届きます。山口さんは番組で、私たちは偽情報が加速度的に増えていく時代にいて、「ウィズフェイク2・0」とも呼べる新たな局面に入っていると強調されました。
吉田同感です。ロシアのウクライナ侵略以降、情報戦は新たな段階に入っていると思います。ロシアは、ウクライナの人たちの抵抗する気持ちを失わせるため、「ウクライナ軍トップがゼレンスキー大統領を批判した」などの偽情報を侵略当初からSNSで流しています。パレスチナでは、イスラエルとイスラム主義組織ハマスが互いに被害の大きさを主張し合う中、生成AIで巧妙に作成された偽画像などが拡散しています。バーチャルな空間を介して人間の感情や行動をコントロールしようとする情報戦は、陸、海、空、宇宙、サイバーに次ぐ「第6の戦場」と言われるようになっています。
私たちは、本当に起きていることは何なのかについて、判別しづらい時代にいます。偽情報は有事に流れるだけではなく、平時から私たちを脅かします。ウィズフェイクの時代に、私たちはどう向き合えばいいのでしょうか。ネガティブ・ケイパビリティーという考え方が、私は一つのヒントになると思います。目の前の新しい情報やセンセーショナルな情報に飛びつくのではなく、不確かさの中にあっても、我慢して考えたり、疑ったりできる力を養うことです。国際社会も連携して、情報空間のゆがみを防ぐような制度や技術的な対策を検討するべきです。