《リサコさんのケース》

老人ホームの部屋に見慣れたリビングを再現する

亡き父母がモノを買い込んだ気持ちが理解できると、これもまた簡単には捨てられなくなる。

約1年半を東京・多摩地区の施設で過ごしたのち、リサコさん(58歳)の母は今年3月に90歳で亡くなった。母の最晩年を見守った品々はほとんど、自分の手元にある。

「選びに選んだ、いちばんいいものが残った感じです」

壁にかけたリトグラフを見て、リサコさんがつぶやいた。

実家は東京・三鷹にある4LDKの一戸建て。父親亡き後もひと通り片づいていた。ただし、

「母は旅行が趣味。私やお友だちと海外にも行って、相変わらずその土地の逸品を探して買い集めていたのです」

母親はおしゃれにもこだわる人だった。ヨシエイナバ、ヨウジヤマモトなど、お気に入りの高級ブランドのアイテムがクローゼットに並ぶ。靴や帽子、雑貨も上質なものを好んだ。娘の目から見ても、よいものを見抜くセンスは抜群だったと思う。

なので、母親がしぶしぶ施設に入ることを承諾した際には「キレイな施設で、好きなものを身の回りに置いて暮らす」ことが絶対条件に。海外で買った山ほどの品々は母には美しい思い出そのもので、いつでも手に取ってながめ慈しみたいのだった。

リサコさんは時間を惜しまず実家と自宅、仕事場を動き回った。幸い、一見高級マンションのように見える新築の介護施設が見つかった。問題は、母親の個室をどうしつらえるかだ。