入りきらないのは明らかだが
「足を悪くしてからの母は、リビングのお気に入りのソファで一日の大半を過ごしていました。施設で機嫌よく過ごしてもらうために、母が家で見ていた光景をできるだけ再現しようと思って」
パリの骨董市で買った棚、マイセンの花瓶、エジプトの香炉、クリスタルのロウソク立て……。古い棚や机は重厚なものがほとんどで、20平方メートル程度の個室に入りきらないのは明らかだった。
「母に選ばせると、『これだけは絶対持っていくの』って言うけれど、ちっとも取捨選択していない(笑)。入りきらないわよと言うと、烈火のごとく怒る。困りました」
生活用品も含めて何とか運び入れ、ディスプレイを考えて並べた。それでも入居した直後、母はしばしば「やっぱり家に帰る」と言い張った。羽子板や小さな雛飾りなど、季節感を意識して取り換え、母の目の前で「今度出しますからね」とオブジェを収納した。次第に母も、残してきた品々のことは口にしなくなった。
現在、実家は売却し、すべての始末が終わったリサコさん。
「母の部屋のものを無理やり私の自宅に持ち込んで、なんとか飾っています(笑)。あの片づけは大変でしたが、母が好きだったものを見ていると、仕事のアイディアが浮かんだりすることもあるんですよ」
そう言って小さく微笑んだ。
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すでに実家の始末を終えた人と、片づけ途上の人。スッキリした前者を、後者は心の底からうらやましく思っている。片づけに際して親のわがままに直面すると、なぜこれほど消耗するのか。それは、昔よりも頑迷さを増し、からだの弱った親の姿を嫌でも突きつけられるから……なのかもしれない。