自分さえ良ければいいのか
「ポピュリズムの根っこには、反既得権益、反既成政党、反エリートの思いがある。右派、左派、中道を問わず、その不満をうまく言葉にして、支持を集めようとしている」=水島氏
「日本も国内の格差や貧困が深刻になれば、外国人に手を差し伸べることに反発が起きるかもしれない。しかし、外国人との向き合い方を戦略的に考える姿勢もアイデアもない」=岡部氏
伊藤欧州のポピュリズムは、国民の不安や不満をあおる大衆扇動型です。これに対して、日本は大衆迎合型のポピュリズムと言えます。政策の実現の見通しもないのにぶち上げたり、不人気な政策には口をつぐんだりするポピュリズムです。これはこれで結構ひどいのですが、日本は現状、欧州のような急進的な政党が台頭する余地は少ないのではないかと思います。
自民党に不満があったとしても、ほかの選択肢が少ないので、無党派層が増えていく。無党派層が投票に行かないと、投票率は下がって、自民党はますます有利になる。こうした構図が長く続いています。自民党は「3割政党」と呼ばれるように、必ずしも国民全体から多くの票を得ているわけではありません。政府の政策が保守的になったとしても、それが日本の右傾化を直ちに意味するとは思えません。
吉田私も、日本が右傾化していくのかどうかは冷静に見ていく必要があると思います。ただ、SNSなどで、立場や意見の異なる人を言葉で激しく攻撃する動きが見られることは気がかりです。外国人もその対象になっています。若者を中心に、社会に対する不満や疎外感を抱く人が増えてはいないのか。伊藤さんは先ほど、日本は選択肢が少ないと指摘されました。急進的な主張がその受け皿となり、突然大きなうねりを起こす恐れはゼロではありません。楽観視はできません。
国立社会保障・人口問題研究所は昨年、2070年に日本の人口は8700万人まで減少して、その1割を定住外国人が占めるようになるとの推計を発表しました。日本は、外国人労働者が下支えする社会に変化していくということです。岸田首相も、移民という言葉は使いませんが、外国人との共生社会を目指すと述べています。国内を分断せず、外国人と共生する社会を、どのような道筋で実現できるのか。日本も考える必要があります。
伊藤紛争や貧困を背景に、豊かな国や治安の良い国に移りたいと考える人の流れは強まっています。世界の人口が80億人に達するなか、故郷を追われる人は1億人を超えました。しかし、寛容だった米国や欧州に、これまでのような余裕はなくなっています。国境というものが、世界でかつてないほど意識されるようになっています。
国境の「壁」を高くするだけでは、問題は解決しません。例えば、生まれた国で安心して暮らせるよう、民生を支援する。それを可能にする、安定した世界の秩序を作る。先進国の日本には、そうした責任があります。右松健太キャスターは番組の最後で、「自分さえ良ければいいという考え方が、右傾化の正体ではないでしょうか」とコメントしました。核心を突いた問題提起ではないでしょうか。
伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988 年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。
吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員
1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。