概要
旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。
欧州各国の選挙で、極右や急進右派とされる政党が台頭している。移民問題や生活苦を背景に、国民の不安や不満に強く訴えることで、議席を伸ばしている。世界の秩序が揺らぐなか、民主主義国に見られる内向きな姿勢は何をもたらすのか。千葉大の水島治郎教授、上智大の岡部みどり教授を迎えた昨年12月6日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。
自国第一主義問われる共生
高まる不満と不安の受け皿
「移民の増加で『自分たちの社会が変質するのではないか』という心理的な不安が広がるなか、『自国民の生活がまず優先されるべきだ』という主張に支持が集まっている」=水島氏
「自国民とのバランスを意識した国家戦略としての移民政策を、どこの国も行っていない。サイレント・マジョリティーである自国民との対話を、もう少し意識するべきだ」=岡部氏
伊藤番組では、昨年11月に行われたオランダの下院選で、極右の自由党が第1党になったことを、まず取り上げました。躍進した自由党は、反移民や反難民をはっきり掲げることで、現状に対する国民の不満の受け皿になったのだと思います。そこに、住宅事情の悪化や最近の物価高など、日々の生活で感じている様々な不安も吸い寄せられたのではないでしょうか。
オランダの下院選は比例代表制で、民意が鏡のように議席数に反映される特徴があります。多くの党が並び立つ結果になっており、自由党は第1党でも連立政権を組まないといけません。実際の政権運営では、実現可能な政策を選択しなければなりません。極端な公約を実現することは難しい。岡部さんは番組で、今回のオランダ国民の選択は、「外国人を国外に追い出せ」という人種差別的な主張というよりは、出入国を管理する力を取り戻したいという意思の表れではないかと言われました。オランダが本当に右傾化するのかどうかは、連立協議の行方をはじめ、よく見る必要があると思います。
吉田オランダは小さな国なので、移民や難民を受け入れることで、社会を発展させてきた歴史があります。寛容さと多文化を尊重してきた国でしたので、今回の選挙結果には驚きました。オランダは、欧州連合(EU)のなかでも、移民や難民の排斥を求めるハンガリーのような国に対して、歯止めをかける役割を果たしてきました。ロシアから侵略を受けるウクライナを支援しようと、戦闘機F16の供与を主導した国がオランダでした。
欧州では、フィンランド、スウェーデン、ドイツ、イタリア、フランスでも、極右や急進右派とされる政党が伸びています。自国第一主義の広がりは一過性のものではなさそうです。欧州は、中東やアフリカと地理的に近く、移民や難民の受け入れは切実な問題です。そのなかで、日々の生活の苦しさを、すべて移民や難民のせいにするような主張が受け入れられるようになっています。社会の閉塞感が高まれば、人びとはどうしても、不安や不満の受け皿として、これまでとは違うものに期待したくなります。ヒトラーは、第一次世界大戦後の生活不安を背景に、支持を拡大していきました。
オランダの自由党は、反移民、反難民、反EU、反ウクライナ支援を掲げています。これからもバランス感覚は維持されるのか。自由と寛容さは尊重されるのか。欧州社会の揺らぎを過小評価せず、注視するべきです。