外れる楽観的見通し

「核・ミサイル開発が進んだことで、正恩氏は核保有国として、米国とは対等に付き合いたいと考えている。次の大統領が誰になろうと、そういう振る舞いをするだろう」=黒井氏

「正恩氏がジュエ氏と見られる娘を連れて歩くのは、正恩氏が国民の父、国父であることを示すとともに、理想とする北朝鮮の若者の姿を国民に見せる道徳教育の側面もある」=吉永氏

伊藤朝鮮半島で第1次核危機が起きてから、ちょうど30年になります。この間、北朝鮮の非核化と体制の安全の保証をめぐって、合意をしては北朝鮮によって白紙にされるという歴史を繰り返してきました。取材を振り返ると、米国は、北朝鮮の動きにおおむね楽観的でした。私がワシントン特派員を務めた際、当時のブッシュ(子)政権高官が「あれだけ世界で孤立して、閉鎖的な国家は10年後には滅びるだろう」と述べたことを思い出します。

しかし、時間稼ぎをされたのは、私たちの方でした。内政では国民を締め付けて、外交では瀬戸際戦術を繰り広げる。北朝鮮が何を考えているのかを見抜けず、楽観的な見通しを立てては外してきたと言えるかもしれません。国は貧しくとも、金一族を守り、米国と渡り合うための核開発は諦めませんでした。正恩氏は、ロシアとの軍事協力を進めようとしており、瀬戸際戦術はさらに巧妙になっています。

見返りは?北朝鮮製ミサイルウクライナ着弾か©️日本テレビ

吉田日本では最近、台湾有事ばかりが注目されますが、朝鮮半島でも危機が迫っていないのか。日米韓は結束して注意を払うべきです。第1次核危機の際、当時の日本政府高官は「朝鮮半島で有事が起きても、日本はほとんど対応できない」と漏らしました。その教訓から、米軍の後方支援を可能にしたり、集団的自衛権を限定的に容認したりする法制を順次整えてきました。敵のミサイル発射拠点などを攻撃する反撃能力の保有も進めています。

しかし、正恩氏の振る舞いには、自信が垣間見えます。ミサイル技術は、変則的な軌道で飛んだり、素早く発射できる固体燃料を使ったりするなど、向上しています。正恩氏は、軍の視察などに、ジュエ氏とされる娘を伴うようになりました。正恩氏には、子どもがほかにもいるとされますが、4代目の存在を早く示すことで、金一族の支配が続くことを見せつけているのかもしれません。内政、外交、軍事の動きをつなぎ合わせると、北朝鮮の中で変化が起きているように思います。

金正恩の娘ジュエ氏©️日本テレビ

伊藤朝鮮半島有事で一番被害にあう国は日本と韓国です。正しく恐れるためには、一つの見方に凝り固まるのではなく、番組で紹介したような様々な見方を参考にして、シミュレーションすることが大切です。北朝鮮が最も気にする米国では今年、大統領選が行われます。もし取引を好むトランプ氏が大統領に返り咲けば、バイデン大統領よりは米朝の間で動きがあるかもしれません。ただ、正恩氏に有利な結果をもたらすとは限りません。2人は2019年にベトナム・ハノイで会談しましたが、物別れに終わりました。正恩氏は、警戒と期待の両面から、米国の選択を注視しているはずです。

解説者のプロフィール

伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員

1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988 年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。

 

吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員

1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。

 

提供:読売新聞