概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が対外姿勢を変化させている。ロシアに急接近して関係を深める一方、韓国を今後は敵対国と見なすと挑発している。世界の秩序が揺らぐなか、朝鮮半島をめぐる緊張の高まりにどう備えるのか。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏、元防衛省情報機関幹部の吉永ケンジ氏を迎えた1月17日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

変わる北朝鮮不断の備えを

生まれながらの将軍

「北朝鮮はこれまで、韓国をのみ込む形での統一を掲げていた。今回、『韓国はもはや別の国だ』という認識を示すことで、自分たちに課していた建前を下ろしたと言える」=黒井氏

「韓国の国家情報院の幹部は『正恩氏は徳川家光だ』と言った。生まれながらの将軍で、誰にも忖度しない。北朝鮮の行動を過去に照らして判断するのは、今後難しくなる」=吉永氏

伊藤北朝鮮は今年に入り、韓国への対決姿勢を強めています。正恩氏は、韓国を「第1の敵対国」と見なすよう憲法の改正を指示しました。韓国との境界線近くでは砲撃を繰り返しました。北朝鮮の挑発は、これにとどまりません。日本や米国まで射程に収める弾道ミサイルや、韓国や日本を狙える巡航ミサイルの発射を続けています。

狙いは?金正恩氏韓国を”敵対国”位置づけ©️日本テレビ

北朝鮮は閉じた国なので、公開された情報や映像から、これまでとの違いを綿密に分析する必要があります。そこで、情報収集と分析に優れた黒井さんと吉永さんを番組に招きました。家光論など、これまでにない視点が示される興味深い放送になりました。お二人の話を聞いてストンと腑に落ちたのは、北朝鮮という国は、金一族をいかに守っていくのかということが国家の目標になっているということです。

北朝鮮の姿勢は、韓国との関係、米国との関係、日本との関係で、行ったり来たりします。金一族の安泰を前提に動いていると考えると、こうした瀬戸際戦術を繰り返す理由が理解できます。今回も、4月に行われる韓国の総選挙への揺さぶりなのか。黒井さんが話されたように、韓国の頭越しに米国と交渉したいのか。このところのロシアへの接近も、安全を確かなものにしたい正恩氏の意思を感じます。

吉田米国の研究機関「38ノース」は1月、朝鮮半島情勢は1950年の朝鮮戦争直前よりも危険であるとの分析リポートを発表して、注目を集めました。こうした見方には議論があると思います。伊藤さんが先ほど指摘されたように、金一族の生き残りを最も重視するのであれば、正恩氏が韓国との戦争にいま踏み切る決断をしたと考えるのは早計のような気がします。

「金正恩は戦争の準備をしているのか?」と伝える、米国の研究機関「38ノース」©️日本テレビ

ただ、家光論が示唆するように、正恩氏が自らの体制の確立に自信を持てたのだとしたら、これまでとは違う動きを見せる危険もあると考え、備えておく必要があると思います。ロシアは昨年以来、北朝鮮から供与された弾道ミサイルや砲弾をウクライナに向けて発射したとされています。北朝鮮の崔善姫外相は1月、ロシアを訪問してプーチン大統領と会談しました。プーチン氏の24年ぶりとなる北朝鮮訪問に向けた調整を行ったと見られます。

「友達のいない国」同士が近づいただけに見えますが、それを可能にした国際情勢を考えるべきです。米国は、ウクライナ、中東、中国との三正面の対応を迫られています。北朝鮮は、その隙を突く形で、ロシアという新たな後ろ盾を得ようと試みています。国際秩序の揺らぎは、北朝鮮に瀬戸際戦術を広げる余地を与えています。