「遺贈しようと思ってます」

母亡き後も、実家には兄が住んでいます。「ほんとはマンションを買わなくても、実家に住めば良かったんでしょうけど……」。でも栄子さんの一人暮らし歴はすでに40年近く。「たとえ兄でも、今更、ひとと一緒には住めない!」。実家の処分はいずれ兄がするでしょうが、お墓は、栄子さんが墓じまいをするつもりです。

本家の墓は車で2時間以上かかる場所にあるため、父が、自分たち4人家族用の墓を近くに作りました。いまは父と母が眠っています。いずれ兄も入るでしょう。栄子さんは兄を見送った後で墓じまいをして、自分は散骨してもらいたい、と考えています。

お墓の始末まで考えている栄子さんですから、もしかしたら、「老後の家」、最期まで住める「終の住処」の、自分が死んだ後の処分についても、考えてますか? 「遺贈しようと思ってます」と栄子さんは即答しました。びっくり! なんと、遺贈とは!!

『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)

遺贈は、死後に財産を寄付することです。「NGOが遺贈を受け付けてくれるようになったので」と、栄子さん。惜しげもなく、他人さまに差しあげてしまうのですね! なんて人間が出来ているのでしょう!

もう自分は結婚もしないし、子どもも持つこともないだろう、と悟った40歳の頃、栄子さんは国際NGOへの寄付を始めました。以来、この20年ほど、毎月3000円の寄付をずっと続けて来ました。寄付先は「プラン・インターナショナル・ジャパン」。紛争や貧困などで厳しい状況にある海外の子どもを支援するNGOです。

栄子さんは、アフリカや紛争地帯の子どもたちの「里親(フォスターペアレント)」になってきました。「フォスターチルドレン」から手紙が来るなどの交流もあります。残念ながら、途中で生死不明になったり、病気で亡くなったりした子もいましたが、栄子さんは止めませんでした。

そのNGOが最近、遺贈を受け付け始めたと聞いたのです。もしもの時は、自宅マンションはこのNGOに遺贈するように手続きをしたい、と栄子さんは言います。