概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める飯塚恵子編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

海外勤務する米国の外交官らが原因不明の体調不良に悩まされる「ハバナ症候群」。ロシアが「音響兵器」で攻撃した可能性を指摘する新たな報道があり、米国で波紋が広がっている。工作を行うロシアの狙いはどこにあるのか。明海大教授の小谷哲男氏、東大先端科学技術研究センター准教授の小泉悠氏を迎えた4月9日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

「ハバナ症候群」ロシアの影

米の調査結果は覆るか

「ロシアが意図的にこういう症状を引き起こしているとすれば、ロシアにとって不都合な活動をしていると見なした人たちに対する警告や威迫であったりする可能性がある」=小泉氏

「米政府は外国勢力が関与している可能性は低いとしているが、米政府として一番困るのは『米露関係を悪化させないようにウソをついている』との見立てが広がることだ」=小谷氏

飯塚米国の外交官や情報機関の職員が、頭痛や吐き気、聴覚障害を訴える現象が起きています。2016年にキューバ・ハバナ駐在の外交官らが訴えたことから、「ハバナ症候群」と呼ばれます。世界各地で同様の報告が相次ぎましたが、米政府は昨年、「外国の敵対勢力が関与している可能性は非常に低い」との調査結果を公表しました。ところが今年4月、ロシアの独立系メディアのインサイダー、米CBSテレビの報道番組「60ミニッツ」、ドイツの有力誌シュピーゲルが共同調査の結果として、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が「音響兵器」で攻撃した可能性があると報じました。

原因不明「ハバナ症候群」に新事実か©️日本テレビ

吉田インサイダーは、GRUの29155部隊の工作員が被害現場近くで目撃されていると伝えました。「音響兵器」は、マイクロ波と超音波を発信して、平衡感覚を失わせたり、脳にダメージを与えたりします。相手を殺害せず無力化する兵器で、離れたところからピンポイントで狙うことができるといいます。そして、29155部隊は、平時から海外に派遣されて秘密任務を行う部隊で、欧州で爆発を伴う破壊工作や暗殺工作も行っていたとされます。米政府が一度否定した後の調査報道です。もし報道の通りなら、ロシアのウクライナ侵略を批判して米国や欧州と連携している日本も警戒しなければなりません。

疑惑露軍「29155」部隊の関与指摘©️日本テレビ

飯塚調査報道に定評のあるインサイダーに加えて、米国とドイツの有力メディアが共同取材しており、国際的に注目を集めています。彼らの記事は詳細かつ具体的ですし、60ミニッツは被害を訴える人たちの証言を紹介しました。米国では、60ミニッツ放送後の反響は大きく、「ハバナ症候群」の真相解明を改めて求める声が高まっています。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルも、社説で「番組には説得力がある。米政府はなぜ否定するのか」と論じています。

ロシアの関与の可能性は低いとしてきた米政府や米中央情報局(CIA)は、悩ましい立場に置かれています。仮に報道が正しいとするなら、「音響兵器」の攻撃に対処できる能力が米国にはないのか。そうでなければ、被害を受けたことをなぜ隠しているのかということになるからです。米国はロシアのウクライナ侵略を批判していますが、「さらなる緊張の高まりを懸念して、自国民の被害を隠している」との臆測も呼んでいます。米国のロシアに対する姿勢も問われており、米政府は真相を明らかにしてほしいです。