相手を萎縮させる工作

「ロシアの情報機関には、破壊工作や暗殺工作は国家を支える名誉な任務であるという意識がある。禁じ手はないので、都合が悪いと思えば、国内外の敵対勢力を排除する」=小泉氏

「CIAも、16年にモンテネグロで起きたクーデター未遂以降、29155部隊に注目しているとされる。部隊の活動は、アフガニスタンなど欧州以外にも広がっている」=小谷氏

飯塚ロシアでは、プーチン大統領に異を唱える人たちが不可解な死にさらされる事件が国内外で続いています。06年には、元情報機関員のリトビネンコ氏が猛毒の放射性物質ポロニウムで毒殺されました。18年には、同じくスクリパル氏が猛毒の神経剤ノビチョクで一時重体になります。20年には、野党指導者のナワリヌイ氏もノビチョクで意識不明になりました。一命は取り留めたものの、その後収監された刑務所で今年2月亡くなりました。ロシアの実業家が建物の窓から落下して亡くなる事件も伝えられています。

リトビネンコ氏とスクリパル氏は事件当時、英国に居住していました。英政府は捜査の結果、旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身のロシア人や、GRU所属のロシア人を容疑者として特定しています。GRU所属の容疑者は29155部隊との報道もあります。しかし、ロシアは、こうした事件に関与していることを認めていません。ノビチョクの保有や使用は化学兵器禁止条約に違反します。英国は当時、「第二次世界大戦後、欧州で初めて化学兵器が使われた」とロシアに猛抗議しました。残忍な手口を使うことは見せしめであり、反体制派を萎縮させようとする意図が透けて見えます。

ナゾ”暗殺”疑惑飛び交うとシアの闇©️日本テレビ

米国や英国も、冷戦時代には様々な工作を行っていたとされます。イラク戦争でも、捕虜への虐待が大きな問題になりました。しかし、ロシアの工作は旧ソ連の伝統を色濃く残しており、組織性と悪質性において、現代では許されない一線を越えています。米国は状況を改めて調査して、ロシアに抗議するべきです。米露の間で様子見をしているグローバル・サウスと呼ばれる新興国や途上国も見ています。

吉田同感です。ウクライナを侵略するプーチン氏は、国際秩序に挑戦しています。東アジアでも、中国や北朝鮮と関係を深めようとしています。日本は米国や欧州と連携して、ロシアに対する抑止力を高めるべきです。プーチン氏は今年3月の大統領選で、5度目の当選を果たしました。プーチン氏とは、これからも向き合わないとなりません。ロシアの政治体制の本質はどこにあるのかについて、日本もよく考える必要があると思います。

ロシアは北方領土を不法占拠しています。日本はウクライナ侵略の前、ロシアと北方領土問題を含む平和条約交渉を行っていました。日本が侵略への制裁措置を科すと、ロシアは一方的に条約交渉を打ち切ります。日米欧の足並みを乱す狙いでしょうが、力による一方的な現状変更を許してはなりません。プーチン氏には、一筋縄ではいかない狡猾さや冷酷さがあるようです。日本の国益を追求する中でロシアとどう対峙していくのか。これまでの日露交渉を含めて検証するべきです。

解説者のプロフィール

飯塚恵子/いいづか・けいこ
読売新聞編集委員

東京都出身。上智大学外国語学部英語学科卒業。1987年読売新聞社入社。 政治部次長、 論説委員、アメリカ総局長、国際部長などを経て現職。

 

吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員

1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。

 

提供:読売新聞