《見っけ》スピッツ

 

喜びや悲しみを優しくすくい上げる

スピッツが3年ぶりのアルバム《見っけ》をリリースした。2017年に結成30周年を迎え、メンバー全員が50代となった彼ら。歳を重ねた今もメロディと歌声の瑞々しさは衰えない。昨年ブレイクを果たしたあいみょんを筆頭に、その影響を公言する一回り以上下の世代のアーティストも多いが、新作はそんなバンドの変わらぬ魅力を示す一枚だ。

軸となるのは、NHK連続テレビ小説『なつぞら』主題歌の〈優しいあの子〉。どこか懐かしさを感じさせるカントリー・ポップ風のおおらかな曲調で、「重い扉を押し開けたら暗い道が続いててめげずに歩いたその先に知らなかった世界」と、困難を乗り越え夢を目指す道程を描く一曲だ。

この曲を筆頭に、元来、柔らかな雰囲気を持つ“ポップソング”のイメージが強いスピッツ。だが、アルバム収録曲には、80’sハードロックの高揚感を彷彿させる〈見っけ〉や、70’sディスコソウルを思わせるダンサブルな〈YM71D〉、アイリッシュ・トラッドをイメージさせる〈曲がった僕のしっぽ〉など、幅広い音楽性の楽曲が収録されている。

また、弱者やマイノリティに優しく寄り添う姿勢が読み取れる歌詞も、スピッツの魅力のひとつだ。「誰よりも弱く生まれて残り物で時をつなげた」と歌う〈はぐれ狼〉や、「いつもブービー君が好き少し前を走る」と歌う〈ブービー〉など、詩的な描写のなかに彼らなりのスタンスを感じ取ることができる。そうした表現がバンドの奥深い味わいにつながっているのだろう。

《見っけ》
スピッツ
ユニバーサル 3000円

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《Traveler》Official髭男dism

「選ばれなかった側」の視点

島根県出身の4人組ピアノポップバンド、Official髭男dismのメジャーファーストアルバム《Traveler》も注目の一枚だ。

通称は「ヒゲダン」。今年5月にリリースされた映画『コンフィデンスマンJP ロマンス編』主題歌の〈Pretender〉が評判を集め、『熱闘甲子園』テーマソングの〈宿命〉や映画『HELLO WORLD』主題歌の〈イエスタデイ〉など話題曲を連発して、一気にブレイクを果たした。

彼らの魅力は、海外のR&Bやダンス・ミュージックの最先端の潮流を、親しみやすい日本語のポップソングに落とし込むセンスにある。フロントマンでソングライターの藤原聡は、スティーヴィー・ワンダーなどブラック・ミュージックに傾倒しつつ、aikoを敬愛しJ-POPも愛好してきたというルーツの持ち主。ほかのメンバーもプロデューサー的な視点を持ち、ブルーノ・マーズなど欧米の人気アーティストのサウンドメイキングに大きな刺激と影響を受けてきた。一聴すると、リズムやアレンジには耳馴染みのない要素もある。だが、誰もが口ずさめるグッドメロディと藤原の表現力豊かなヴォーカルがそこに乗ることで、普遍性のあるポップスに仕上がっている。

共感性の高いストーリーを描き、巧みに韻を踏む日本語の言葉の響きにこだわった歌詞も魅力だ。たとえば〈Pretender〉は「もっと違う設定でもっと違う関係で出会える世界線選べたらよかった」と叶わぬ恋の相手に焦がれる思いを描く失恋ソング。高校野球をモチーフにした〈宿命〉も「奇跡じゃなくていい美しくなくていい」と、泥臭くがむしゃらな情熱を歌い上げている。どちらも、“選ばれなかった側”の視点を感じさせる表現が印象的だ。

国民的バンドとして第一線を走り続けてきたスピッツと、次のJ-POPを背負う存在になりつつあるヒゲダン。共通するのは市井の人々の喜びや悲しみを優しくすくい上げる姿勢にあると言っていいのではないだろうか。

《Traveler》
Official髭男dism
ポニーキャニオン 2800円