諦めない中国と向き合う

「私が海自に入った頃に比べて、中国海軍はどんどん近代化しており、新しい艦艇が毎年何十隻も就役している。訓練された乗員も増えており、30年前とは全く違う状況だ」=山村氏

「中国は、新しい技術を習得する速度を上げている。3隻目の空母『福建』に電磁式カタパルトを採用して、中国独自の技術も開発できるようになったと主張し始めている」=小原氏

伊藤中国は、海軍と海警局が一体となって、南シナ海や東シナ海で緊張を高めています。さらに、空母の運用が3隻態勢になったり、米海軍の接近を阻止する極超音速の対艦ミサイルを保有したりしています。過小評価は禁物ですが、練度を含めた中国海軍の実力はどうなのかについては冷静な分析が必要だと思います。

中国軍 3隻目の空母「福建」の性能は?©️日本テレビ
中国軍 3隻目の空母「福建」の性能は?©️日本テレビ
中国 ”対艦用”極超音速ミサイルを保有©️日本テレビ
中国 ”対艦用”極超音速ミサイルを保有©️日本テレビ

米中対立とよく言われますが、実際には、米国、日本、オーストラリア、韓国、フィリピンがまず連携して、中国の挑戦に向き合うことになると思います。中国には、海における「友達」があまり見あたりません。その意味でも、インド太平洋方面派遣で日本が仲間作りを進めることは、中国に対する抑止力を高めて、戦争を起こさせないことにつながります。

吉田米議会の報告書によると、中国海軍の戦闘艦の保有数は米海軍をすでに上回っており、2030年には中国の戦闘艦が435隻になるのに対して、米国は290隻にとどまるとしています。伊藤さんの指摘される通り、その内実は冷静に分析する必要がありますが、中国は決して諦めないところがあり、注意するべきです。空母が3隻になれば、ローテーションで1隻を常時任務につかせることが可能になります。膨大な電力を使う電磁式カタパルトは、米海軍の空母にだけ搭載されていました。台湾有事をにらんで、米軍の接近を阻止したいという意思を感じます。中国は、台湾の頼清徳総統が5月に就任した直後、台湾を取り囲む形で軍事演習を行いました。

近代化 中国海軍の部隊30年間で”変貌”©️日本テレビ
近代化 中国海軍の部隊30年間で”変貌”©️日本テレビ

日本は、志を同じくする仲間作りを進めながら、日本の防衛力の強化を進めています。陸海空の各自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」が今年度中に設置されます。有事の際などに、部隊の垣根を越えて即応できる体制ができることは画期的です。「統合作戦司令部」は、在日米軍を指揮する米インド太平洋軍司令部のカウンターパートになり、米軍との情報共有や運用面での協力、共同訓練がしやすくなることが期待されます。4月の日米首脳会談では、自衛隊と米軍をより一体的に運用できるよう、指揮統制のあり方を見直す方針を決めました。緊張を緩和する外交努力も進めながら、抑止力を高めていくことが大切です。

米軍 インド太平洋軍新司令官が就任©️日本テレビ
米軍 インド太平洋軍新司令官が就任©️日本テレビ

伊藤忘れてはならない課題もあります。国の安全を担う自衛官の人手不足が続いており、とりわけ海自は乗員の確保に悩まされています。海自は長い航海に出るため、陸海空の中でも任務は過酷とされます。海自も、乗員の働く環境を改善する様々な試みを行っています。番組で紹介した護衛艦「のしろ」は、艦艇の能力を落とさず少ない人数で任務を遂行すべく、最新のデジタル技術を採用するなどして、従来の護衛艦の半分以下の90人で運航できるようになりました。乗員が少ない分、艦内の居住性は向上したといいます。洋上で乗員がスマートフォンをいつでも使用できるよう、艦艇に衛星通信アンテナを設置する取り組みも始めています。安全保障を考える時、装備品などに関心が集まりがちですが、社会全体で人手不足が続くなか、自衛官をどう確保して、どう育てていくのかを国の課題として考えるべきです。

解説者のプロフィール
伊藤俊行 読売新聞編集委員

伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員

1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988 年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。

 

吉田清久 読売新聞編集委員

吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員

1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。

 

提供:読売新聞