マンション選びは気をつけなさい

区分所有法によって、マンションは区分所有者全員で「管理組合」をつくり、合意形成して、建物を適切に維持・管理・補修する、と定められています。嘉子さんはここ4年以上、マンションの管理組合の理事を務めています。築古のマンションは、建て替えか、耐震補強を含む大規模なリノベーションか、の二択を迫られ、住民内で意見が対立しがちです。でも幸か不幸か、ここでは最初から「建て替えの選択肢はなかった」と嘉子さんは説明します。

立地が都会ゆえ容積率ぎりぎりで、郊外の団地みたいに土地が余っていません。余剰床を新規分譲して建て替え代金に充当することができないのです。建て替えには1戸あたり数千万円もの費用が必要なので、迷う余地なく、耐震改修と大規模修繕の方向性です。いま耐震工事についてアンケートを取っているところです。

「人件費も資材費も高騰しているから、年内には契約したい。でないと、また工事代が上がる~」と、嘉子さんは悲鳴を上げます。耐震化の検討が始まった数年前よりも工事費は上昇。すでに増額していた修繕積立金を、さらに上げる必要が出てきました。耐震改修と大規模修繕を同時に施工し、全棟の着工から完工まで1年はかかります。いまの理事は全員、耐震化工事が終わるまでは続投する予定です。

実は、これまでの管理組合理事会は、耐震化の議論を先送りして、耐震診断をしてきませんでした。耐震診断をしたら、耐震性能の低さが明らかになって価値が下がり、耐震工事が必須になるためです。新築時から住んでいる高齢の所有者には、このままでいい、という人も多かったようです。

それが、売買で区分所有者が若返るにつれて、管理組合も世代交代。いまの理事会は若い世代ばかりで、嘉子さんが最年長です。「ちょうど良かった。若い人じゃないと、耐震化なんてできない」。まず、耐震補強工事のコンサルタントを、3社から見積もりを取って選定。それから、実際に工事する業者を、4社から相見積もりを取り、コンサルと精査しました。大きな金額が動くので、こうした選考手順が必要でした。

「だから、老後の家としてマンションを買う人には、声を大にして言いたい。マンション選びは気をつけなさい、って。築何年とかも大事だけど、どういう管理会社が管理しているか、理事会が機能しているかが、いちばん大事」と、嘉子さんは力説します。面倒な耐震改修の議論は、若い理事たちだからこそ可能でした。

写真提供◎photoAC

「規模も大きいほうがいい。うちは200戸あって良かった。せめて100戸はあったほうがいいと思う。20戸とか小規模だと、工事をする時、予算と人材が大変」。総戸数が少ないと、工事費を戸数で割った負担が割高になります。外壁塗装などは、足場を組むだけでお金がかかるからです。ちなみに嘉子さんのマンションでは、足場だけで1億円もするそう。

人材とは、大規模修繕などの工事の際、マンション内にさまざまな専門家がいると便利だからとのこと。例えば、と嘉子さんが解説します。「うちのマンションは、元デベロッパーの人が理事になっていて、工事費用の相見積もりを取る時に精査してくれた。工事の細かい内訳を、これは要らないとか、要るとか、高すぎるとか、どの工事が削れるとか。工事の順番を後にしても大丈夫だとか、どんな新しい改修方法があるとか、全部知っている」

業者によっては、工事で儲けようと、相場より高い見積もりを出したり、不必要な工事を紛れ込ませたりすることもあります。管理会社が、自社の関連会社に高い見積もりを出させるケースはよく聞きます。その点、建築家や、工務店やゼネコン勤めなど業界関係者、区分所有法に詳しい弁護士らの専門人材がいれば、無駄な工事かどうかが見極められます。外部に依頼するとお金がかかりますが、マンション内の人ならば、ほぼただで済みます。

「だから、終の住処のマンションを買ったら、理事になることを勧めます。でないと自分の財産が守れないから。管理組合にいくらお金があるのか、どんな工事が今後必要か、全部分かるから」。モトザワも同意します。