夫の死後にあった問題

夫の死後、問題が一つありました。マンションの権利です。子のいない嘉子さん夫婦の場合、民法の規定では、夫の財産は、妻である嘉子さんが半分を相続し、残りの半分は両親が相続します。夫の預貯金は治療費で使い果たしたため、遺産は自宅だけでした。名義が夫婦で半々だったマンションは、夫の死去で、嘉子さんが75%を所有し、義父母に半分の半分、つまり25%の相続権が発生することに。

お骨にはこだわらなかった嘉子さんですが、自宅マンションは失いたくありませんでした。気は重かったものの、きちんと話そうと決意。8月、新盆で義父母の家に行った初日に、嘉子さんは思い切って義父に切り出しました。

「うちのマンションの権利は、彼の持っていた50%のうち、25%を私が、残り25%をお義父さんたちが相続することになります。でも、私に継がせてもらえませんか」

義父は黙ったまま、返事をくれませんでした。ああ怒らせちゃったか、やっぱりダメだったか、仕方がないと、この話題はその後は封印。ところが1週間ほど滞在して帰京する日、義父から「嘉子さん」と声を掛けられました。

「あの時は返事をしなくて悪かったね。あんたの言ってることが信じられなかったんだ。あれから数日、税務署に行ったりして調べてみて、本当に自分たちが25%を相続すると分かって、びっくりしました~。もちろん、私たちは要りません。嘉子さんが住み続けて」

義父母は快く相続放棄してくれました。相続登記をして、マンションは100%、嘉子さんの所有物になりました。

『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)

夫の死後、こんなこともありました。夫の年金手帳を持って年金事務所に行った時、年金について何も言われませんでした。在職死亡だったからかと思い、次に医療保険の手続きに区役所に。すると窓口で「遺族年金は出るはず」と教えてもらいました。取って返して、同じ担当者を捕まえ、区役所で年金が出ると聞いたと尋ねました。すると出ることに。「あれは絶対、故意ね。申告されなかったから年金を払わなかった、って言い抜けるつもりだったんだわ」と、嘉子さんは怒り心頭です。遺族年金は月4万円ほど。基礎収入があるのは大きいです。