役者として終わり 

僕自身の一つのターニングポイントとなったのは27歳の時にお声がけいただいた『騒音歌舞伎(ロックミュージカル) ボクの四谷怪談』という蜷川幸雄さんの舞台でした。主役ではなかったのですが、僕はお岩さんのお役でしたので実質のヒロイン(笑)、重要な役回りです。

蜷川さんの舞台といえば「観に来てください!」と各所に連絡せずとも、業界関係者は誰もが足を運びます。歌舞伎を観ない方にも顔を知っていただき、存在感をアピールする機会になることは間違いなかった。

僕も蜷川さんのために集結したメンバーではあったのですが、頭の中ではもう「自分を見てもらいたい」、もとい「自分さえ見てもらえれば」くらいに気持ちが肥大していました(笑)。僕の公演に懸ける思いは大きかったものの、蜷川さんは噂に違わず厳しい方で、「ダメだ」とただ黙って首を振られ続ける日々。

本番2日前のゲネプロで窮地に立たされた中、羞恥心を捨てて夢中で演じ、やっと笑っていただくことができました。その時に覚醒した感覚を味わい、「自分の殻を破ってエンターテイナーとしてステージに立つとはどういうことか」が見えた気がしたんです。役者として演じることの矜持を、蜷川さんに授けていただいたように感じています。あの命懸けの舞台がなければ、間違いなく今の僕はここに存在しない。