東アジアに重大な影響
「北朝鮮の意図は測りにくいが、韓国と今、軍事衝突をしようと考えているのであれば、兵力を一定程度ロシアに提供することは、自分たちの戦力を分散させることになる」=兵頭氏
「ロシアは北朝鮮と関係を強めて、自分は孤立していないと欧米にアピールできる。他方で、中国は露朝の関係の深化を好ましく思っておらず、微妙な駆け引きとも言える」=廣瀬氏
伊藤北朝鮮はこのところ、韓国に対する敵対姿勢を強めています。10月には、韓国を敵対国家と規定する憲法改正を行い、南北軍事境界線付近の道路や線路を爆破しました。朝鮮半島の緊張を高める一方で、兵力を割いてロシアに送ることは矛盾する行動のように思います。兵士が死傷したり、捕虜になったりするリスクもあります。北朝鮮は、直ちに韓国と事を構えるつもりはなく、まずはロシアから軍の近代化につながる技術移転を引き出すつもりではないでしょうか。北朝鮮がそうして軍事力を着々と高めた次の段階、そう遠くない時期に東アジアで緊張が格段に強まる恐れがあります。
ロシアと北朝鮮は独裁的指導者が国家を率いています。プーチン氏にしても、金正恩・朝鮮労働党総書記にしても、私たちの合理的な考え方とは異なる独自の世界観や行動原理を持っています。ウクライナ侵略は、私たちからすればあり得ないことですが、プーチン氏は実行しました。正恩氏の振る舞いも、「そこまではしないだろう」と軽々に判断してはなりません。
吉田同感です。ロシアのウクライナ侵略は、東アジアの安全保障環境にも重大な影響を及ぼす段階に入っています。東アジアで緊張が高まった時、今度はロシアが北朝鮮を支援することになるのかどうか。今回の派兵をきっかけに、連携が深まるのかどうかを注視する必要があります。北朝鮮は、歴史的にも、経済的にも、中国を頼ってきました。中国は、北朝鮮がロシアと関係を深めることを苦々しく思っているはずですが、強く制止する様子は見られません。最大の競争相手である米国との向き合い方を考えた時、同じ方向で米国に対抗してくれるロシアと北朝鮮とは、不満はあっても関係を保っておく必要がある。北朝鮮も、そうした中国の足元を見て、強気に振る舞っているのではないでしょうか。
日本は危機感を持って、米国、韓国と連携しながら、北朝鮮、中国、ロシアの思惑を丁寧に読み解いていく必要があると思います。日本は衆院選の結果、与党が過半数を割りました。しかし、外交と安全保障を内政の混乱で停滞させてはなりません。国益を踏まえた与野党の見識が問われます。
伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988 年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。
吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員
1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。