概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

北朝鮮がロシアに多くの兵士を派遣している。北朝鮮兵士はウクライナとの戦闘に参加すると見られ、侵略は新たな局面を迎えている。ロシアと軍事的な連携を強める北朝鮮の動きは看過できない。今後の東アジアの安全保障環境にも影響する。防衛研究所研究幹事の兵頭慎治氏、慶応大教授の廣瀬陽子氏を迎えた10月18日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

ロシアに派兵北朝鮮の思惑

前のめりになる北朝鮮

「北朝鮮は既に砲弾やミサイルを供与していた。さらに進んで、兵士まで派遣してくる。実戦訓練というメリットだけではなく、兵士と引き換えに外貨を得るとの見方もある」=廣瀬氏

「露朝は6月に包括的戦略パートナーシップ条約を結んだ。両国接近のリアリティーを西側に重ねて見せたいのだろうが、条約の発動による派兵なのかは見極める必要がある」=兵頭氏

伊藤北朝鮮がウクライナを侵略するロシアに多くの兵士を派遣しています。この日は、ウクライナのゼレンスキー大統領や韓国の情報機関が1万人規模の派兵の動きがあることを明かして、警戒を訴えた直後の放送でした。その後、米国も北朝鮮による派兵を公式に認めました。北朝鮮兵士がロシア国内で訓練を受け、シベリア鉄道で移動する動きなどが確認されています。

北朝鮮兵”1万2000人”派遣か©️日本テレビ
北朝鮮兵”1万2000人”派遣か©️日本テレビ

他国の軍事行動に兵士を派遣することは、集団的自衛権の行使だったり、国連の決議に基づくものだったりしなければ、国際法に違反します。ロシアと北朝鮮は包括的戦略パートナーシップ条約を結んでおり、有事の際の相互の軍事支援も盛り込まれています。しかし、今回の派兵の動きが明らかになった段階ではまだ条約は発効しておらず、その後、ロシアは慌てるかのように、下院から条約批准の手続きを始めました。プーチン大統領は、もはや派兵の動きを否定しなくなりましたが、国際法違反であることは厳しく問われなくてはなりません。

吉田北朝鮮はこれまで、中国との関係を第一に考えており、ロシアとはそこまで強い結びつきはありませんでした。しかし、ウクライナ侵略以降、ロシアと北朝鮮という、言わば国際社会から浮いた者同士が手を握る状況が生まれています。既に国連から制裁を受けている北朝鮮が、ロシアと一蓮托生となり、さらに厳しい目を向けられても、なぜ派兵を行うのか。

北朝鮮は、弾道ミサイルの能力向上や核兵器の小型化、軍事偵察衛星の運用などに資する技術が欲しくてたまらない。ドローンなどが投入される現代戦の様相を自分の目で確認したいでしょうし、廣瀬さんが言われた通り、外貨や食料を手に入れることも狙っているのでしょう。既に砲弾などを供与していましたが、兵士まで派遣する北朝鮮の思惑を、これまで以上に見極めなければならないと思います。

伊藤ロシアでは確かに兵士と兵器の確保が課題になっています。ただ、ロシアが条約の批准を急いで進めたように、両国の連携にはチグハグなところも感じます。吉田さんのご指摘のように、北朝鮮の方が前のめりで、秋波を送られたロシアには当初ありがた迷惑な様子がうかがえました。

番組では、この放送の後も継続して派兵について取り上げています。10月24日の放送で、安全保障ジャーナリストの吉永ケンジさんは、両国は共同の軍事訓練をこれまで行っておらず、北朝鮮兵士が最前線に行っても、ロシア軍とうまく連携できるのかは未知数だと指摘されました。「暴風軍団」と呼ばれる精鋭部隊が派遣されるとの報道がありますが、そもそも言語は異なりますし、ロシア軍の組織戦の内容、指揮統制を理解しないと加勢はできません。北朝鮮兵士は、ロシアのウラジオストク近郊やブリヤート共和国で訓練を受けた後、越境攻撃を受けるクルスク州で戦闘に参加したとの一報があります。兵士の身分はどういう位置づけになるのか、どのような任務を担うのかに注目する必要があります。

北朝鮮兵”1万2000人”派遣か©️日本テレビ
北朝鮮兵”1万2000人”派遣か©️日本テレビ
北朝鮮兵”1万2000人”派遣か©️日本テレビ
©️日本テレビ