日本では、50代以上の女性の4人に1人が骨粗しょう症と言われています。 骨がもろくなると一度の骨折をきっかけに自立度が大きく低下し、さらなる骨折や、介護に頼る生活になることも。 早期発見の重要性と治療の最新知見を、にいみ整形外科の新美塁先生に聞きました

骨は新陳代謝で
強度を保っている

骨粗しょう症とは骨の強度が弱まり、ちょっとしたことで骨折しやすくなる病気です。日本には1600万人もの患者さんがいると言われ、高齢化に伴い、その数はますます増加しています。

私のクリニックも50代以上の女性の患者さんは多いですね。女性ホルモンの一種であるエストロゲンには骨の強さを保つ作用があり、閉経後にホルモンバランスが変化すると骨量が急激に減って、骨粗しょう症になりやすくなるのです。読者の皆さんも、骨密度検査を勧められたことがあるのではないでしょうか。

骨の硬さがわかる骨密度は、骨粗しょう症を診断するうえで大事な目安です。ただ、私が同じくらい重要だと考えるのは、過去の骨折経験。転んで手をついた、尻もちをついた、あるいはくしゃみをした、といった状況で骨折した場合、骨密度がそれほど低くなくても、骨粗しょう症と診断できる可能性が高いからです。特に手首の骨折は閉経後の女性に多く見られ、「すごい勢いで転倒したから」と皆さんおっしゃるのですが、この世代の女性だけ、勢いよく転倒するわけがない(笑)。それだけ骨が折れやすくなっていることの表れです。

なかには、「腰痛が長引いている」というのでレントゲンを撮ったところ、背骨が折れていた患者さんもいました。「背中が曲がってきた」「身長が縮んだ」という人の背骨が何ヵ所か折れているケースも。骨折したら気づくだろう、と思うかもしれませんが、加齢に伴い、身に覚えも、激しい痛みもなく、いつのまにか骨折している危険性は増えていくのです。

骨折自体は、適切な治療をすれば治ります。しかし治るまでに活動量が減ることで筋肉が衰え、さらに転倒しやすくなることも。特に背骨を折ると背中が丸くなって体のバランスが取りづらくなり、次の転倒に繋がりかねません。寝たきりの状態が続けば、介助や介護が不可欠な生活になる可能性が高まります。認知症を引き起こしたり、寿命そのものが短くなるというデータもあるのです。

そもそも骨には、古い骨を壊す働きをする破骨細胞と、骨をつくる骨芽細胞があります。つねに古い骨を壊し、そこに新しい骨をつくり替える新陳代謝(骨代謝)によって強度を保っている。道路と同じ仕組みですね。加齢による女性ホルモンの減少をはじめ、栄養の偏り、運動不足、痩せすぎ、喫煙、過度の飲酒、ステロイド薬の服用といった原因で骨代謝のバランスが崩れると、骨のカルシウム量(骨量)が減り、強度が弱まります。

特に手首、背骨、大腿骨、二の腕は骨粗しょう症による骨折の四大部位と言われており、閉経後の女性が骨折した場合、1年以内に再び骨折するリスクが通常の5.3倍に上がる、という海外の調査結果も出ています。

中村利孝監修:わかる! できる! 骨粗鬆症リエゾンサービス改訂版―骨粗鬆症マネージャー実践ガイドブック―. 医薬ジャーナル社,p36-38,2016より作図

治療で骨折を予防。
活動的な毎日を

骨の健康を保つため、食生活ではカルシウム、ビタミンD、ビタミンKなど骨の形成に役立つ栄養素を積極的に摂るといいでしょう。外に出て日光を浴び、体内でビタミンDをつくることも大切です。しかし残念なことに、2回骨折するような重度の骨粗しょう症の患者さんが、食事や日光浴で得られる効果は限定的です。ウォーキングやかかと落としで骨に適度な刺激を与える方法も予防策に過ぎず、むしろ「食事や運動に気をつけているから大丈夫」と過信して治療が遅れることのほうが、医師としてこわいですね。

50歳を過ぎたら、まずは積極的に骨密度検査を受けましょう。背骨と大腿骨を同時に測れるDXA法が最も優れています。できれば同じ医療機関の同じ機器で、同じ部位を定期的に測ると、骨量の変化を確かめることができておすすめです。

加齢とともに骨は弱くなっていくので、骨粗しょう症になった骨が本質的に治ることはありません。でも、治療により骨折を予防することはできます。治療薬には、①骨を壊す破骨細胞の働きを抑える薬、②骨をつくる骨芽細胞の働きを促進する薬、の2種類があり、重症度や生活習慣に合った薬を選びます。内服薬は主に軽症者、注射薬が主に重症者向けです。①は半年から1年に1回ほど、②は月1回または週1回病院で注射するものや自己注射製剤を推奨しており、②の注射薬はここ数年で進歩し、治療成績が改善しています。

治療において大切なのは、医師から指示された服用方法や治療の期間を守り、自己判断で治療を中断しないこと。同時に意識したいのが、「日常生活で骨折しない」ための対策です。スクワットや背筋運動で骨を支える筋肉を鍛え、バランス感覚を養いながら転倒に気をつけましょう。適切な診断と治療、日常の対策を通じて骨の健康を守り、快適な「人生100年時代」を過ごしてください。

各薬剤の電子化された添付文書を参考に作図

お話を伺ったのは

新美 塁(にいみ・るい)先生
にいみ整形外科院長

2002年三重大学医学部卒業。富田浜病院医長を経て、18年ににいみ整形外科(三重・桑名)を開院。膝や肩、首、股関節の痛み、骨や筋肉にできるがん、骨粗しょう症に関する研究・治療が専門。医師や看護師、薬剤師向けの講演会も精力的に行う

骨粗しょう症についてもっと知りたい方は
https://www.fightthefracture.jp/