『ヘンリー八世』

最強の王をめぐるスキャンダルと陰謀の行方は──

阿部寛といえば、ドラマや映画でのいい人、おもしろい人のイメージが強いだろう。その阿部が、5年ぶりの舞台で、欲望に忠実でエネルギッシュな「強い」国王を演じる。作品は、シェイクスピアの歴史劇『ヘンリー八世』。シェイクスピア全戯曲37本の完全上演を目指す彩の国シェイクスピア・シリーズの35本目だ。2016年に亡くなった蜷川幸雄の後を継いでシリーズの芸術監督になった吉田鋼太郎が、演出を担当する。

エリザベス一世の父として知られるヘンリー八世は、「英国王室史上、最もスキャンダラスな王」といわれる。部下をも容赦なく切り捨て、王妃を替えるため、離婚を認めないローマ・カトリック教会から独立。英国国教会を打ち立てた。

そのヘンリー八世を主人公にした今作は、歴史劇にしては珍しく戦争場面がない。舞踏会や戴冠行列、エリザベス女王洗礼の祝賀など、華やかな場面が続く。一方、国王の周囲では欲望と謀略が渦巻き、熾烈な地位争いが交錯。人間くさいドラマが展開される。

国王の宮殿では、王の寵愛を受けながら策略を巡らす枢機卿ウルジーが、公爵たちの非難の的になっていた。そんななか、王の信頼が篤いバッキンガム公が、ウルジーの陰謀により裁判にかけられ、冤罪で死刑に。

ある晩、王はウルジー邸の晩餐会で女官アン・ブリンに心奪われ、王妃キャサリンとの結婚を無効にしようと離婚裁判を起こす。キャサリンは敵であるウルジーが審判する裁判への出頭を拒否し、ウルジーもまた自分の得にならない裁判の延長を謀る。一方、王の腹心クランマーは大司教に命じられるが、司教たちに阻まれて……。

阿部以外のキャストも魅力的だ。吉田が演じるのは敵役のウルジーで、ライバルたちを蹴落とす際の詭弁、雄弁が見どころだろう。クランマー役で初舞台を踏むのは、ドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る。』などで人気の金子大地。そのほか宮本裕子、山谷花純、谷田歩、河内大和らが舞台を盛り立てる。

吉田の演出もシリーズ3作目。メリハリが利き、仕掛けも満載、何より面白いという吉田流が、この歴史劇をどう料理するのか。楽しみにしたい。
 

彩の国シェイクスピア・シリーズ第35弾
ヘンリー八世


2月14日〜3月1日/埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
作/W・シェイクスピア 翻訳/松岡和子 演出/吉田鋼太郎
出演/阿部寛、吉田鋼太郎、金子大地、宮本裕子、山谷花純、谷田歩、河内大和ほか
TEL 0570・064・939(SAFチケットセンター)
※北九州、大阪公演あり

 

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『てがみ座 第16回公演 燦々』

葛飾北斎の娘の葛藤を描く、青春物語

江戸後期、黒船来航の少し前。葛飾北斎を父に持つお栄は、幼いころから男弟子たちに交じり父の工房で絵筆を握ってきた。代作をこなし枕絵も描いてきたが、独自の絵を追求しようと決意したとき、女である自分を受け入れ見つめ直さねばと痛感する。

折しも、出島からやってきたシーボルト一行が大量の絵を発注してきた。肉筆画を西洋の画法で描いてほしいという注文に、お栄は自らの光と闇を見いだそうとする。

後に『夜桜美人図』『吉原格子先乃図』を生むお栄(葛飾応為)の、幕末を駆け抜けた青春の物語。評伝劇に定評がある長田育恵の2016年初演の作品が、男女の綾をより色濃く描いた改訂版で再演される。

てがみ座 第16回公演 燦々

2月7〜16日/東京・東京芸術劇場 シアターウエスト
作/長田育恵 演出/扇田拓也
出演/石村みか、箱田暁史、岸野健太(以上てがみ座)、前田亜季、酒向芳、川口覚、
速水映人、福本伸一(ラッパ屋)、野々村のん(青年座)、宇井晴雄、藤間爽子、中村シユン
TEL 03・5942・9025(プリエール)
※釧路、札幌、函館、旭川公演あり

 

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『野莵たち』

日英の演出家・俳優による共同作品

岐阜県可児(かに)市で長年活発な活動を続けている地域劇場が、イギリスの劇場リーズ・プレイハウスと共同で新作を制作し、日英で上演する。

繁栄の陰に隠れた現代人の孤独やストレスを掘り下げ、生きることとは、幸福とは何かを問う、家族の物語だ。イギリスの俊英、ブラッド・バーチが日本各地を取材して書き下ろした。日英の演出家が共同演出し、両国の俳優が出演する。

物語は、ロンドンで暮らす娘・早紀子が、婚約者とその母を伴って故郷の可児市に帰ってきたところから始まる。母は温かく歓迎するが、父は不在を決め込み出てこない。ショックを受けた早紀子は、婚約者に鬱屈した思いを吐露するが……。

野莵たち

2月8〜16日/東京・新国立劇場 小劇場
2月22~29日/岐阜・可児市文化創造センター 小劇場
作/ブラッド・バーチ 翻訳/常田景子 演出/マーク・ローゼンブラット+西川信廣
出演/スーザン・もも子・ヒングリー、小田豊、七瀬なつみ、
サイモン・ダーウェン、アイシャ・ベニソン、田中宏樹、永川友里
TEL 03・5797・5502(石井光三オフィス) ※英国リーズ公演あり