型破りの魅力と限界

「米国は世界で主導的役割を果たしてきたが、トランプ氏には米国の手足を縛っているように見えている。米国が自由に動くことができた時代に戻したいと考えている」=小谷哲男氏

「中国は中南米に影響力を拡大してきた。自分の庭先で米国の優位が揺らぐことをトランプ氏は許さない。パナマをはじめ、中国の影響力をひっくり返そうとしている」=小原凡司氏

伊藤2月6日の放送では、トランプ氏の国際秩序に対する考え方を探りました。トランプ氏は、米国がパレスチナのガザ地区を所有し、住民は域外に移住してもらうと発言して波紋を広げました。米国では、トランプ氏の言動をアウト・オブ・ザ・ボックスとよく表現します。型破りという意味で、支持者は「そこがトランプ氏の魅力なんだ」と言っていました。

トランプ大統領「ガザ所有」発言の反応©️日本テレビ
トランプ大統領「ガザ所有」発言の反応©️日本テレビ

ガザを巡る発言が出た後、米国のメディアは「トランプ氏はそもそもボックスを分かっていない」と皮肉る記事を載せました。住民を強制移住させることは国際法に違反します。明海大教授の小谷哲男さんは、ガザのひどい状況を何とかしたいという良心から出た発言かもしれないが、あまりにも国際法への理解が欠如していると話されました。これまで国際社会が築き上げた規範やルール、歴史的な経緯を踏まえない発言は、誤解を招いたり、反発を買ったりします。アウト・オブ・ザ・ボックスは、選挙で有権者の心をつかむかもしれません。政権運営や国際政治では、そこに深謀遠慮がなければ、かえって事態を悪くします。

ガザ地区のトランプ大統領発言に側近釈明©️日本テレビ
ガザ地区のトランプ大統領発言に側近釈明©️日本テレビ

吉田トランプ氏は、パナマ運河の管理権を取り戻したい、デンマークの自治領グリーンランドを取得したいとも述べています。これにも驚かされました。笹川平和財団上席フェローの小原凡司さんが指摘されたように、南北アメリカ大陸から、中国やロシアの影響力を取り除く狙いがあります。ルビオ国務長官の初外遊先は、同盟国ではなく、パナマでした。もちろん、国家は自国の国益を追求するわけですが、米国第一主義を象徴するような、これまでとは異なる光景です。

板挟 パナマ運が米中対立の火種に©️日本テレビ
板挟 パナマ運が米中対立の火種に©️日本テレビ
グリーンランドめぐる発言©️日本テレビ
グリーンランドめぐる発言©️日本テレビ

米国が主導してきた民主主義や自由貿易に基づく国際秩序が揺らいでいます。米国第一主義は、トランプ支持者の熱狂ぶりを見る限り、トランプ氏個人の問題意識にとどまらない、うねりのようなものを感じさせます。日本はこれからも特別扱いしてもらえるという楽観がありましたが、トランプ氏の世界観と行動原理を冷静に分析して、戦略的に備える必要があります。

解説者のプロフィール
伊藤俊行 読売新聞編集委員

伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員

1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988 年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。

 

吉田清久 読売新聞編集委員

吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員

1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。

 
 

提供:読売新聞