概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

1月に発足した第2次トランプ政権は、矢継ぎ早にウクライナでの停戦交渉に乗り出したり、高い関税を発動したりしている。トランプ氏の発言と政策に世界が振り回されているように見える。ディールと呼ばれるトランプ氏の手法とその背景にある考え方に、どのように向き合っていけばいいのか。2月6日と3月5日の放送を中心に、編集委員2氏が語り合った。

トランプ劇場戦略的対応を

悪くない方向に誘導

「ゼレンスキー大統領は嫌々押し切られたと思う。停戦後の安全の保証は曖昧なまま、戦争をやめろと迫られた。軍事支援を止めるとまで言われると、あらがえなかった」=佐藤正久氏

「次々と繰り出すトランプ流のやり方に世界は押されている。しかし、トランプ氏の言っていることと、実際にやっていることには違いがある。トランプ氏は言葉先行だ」=渡部恒雄氏

伊藤トランプ氏は1月、米国大統領に再び就任しました。就任100日間は、野党や報道機関も政権の始動を見守る「ハネムーン期間」と言われます。トランプ氏は、そんなことを気にかける様子はなく、大統領選で掲げた政策を次々と実行に移そうとしています。荒業にも見える振る舞いに対し、世界は右往左往しています。

番組もトランプ氏の言動を追ってきました。トランプ氏の施政方針演説を受けた3月5日の放送は、ロシアのウクライナ侵略を巡る停戦交渉と、同盟国まで牽制する関税政策を取り上げました。自民党幹事長代理の佐藤正久さんは、最初にウクライナに圧力をかけたことはトランプ氏の戦略ミスではないかと言われました。トランプ氏は立場の弱い国をさらに苦しい立場に追い込んでいるという指摘は、別の日のゲストもされています。プーチン大統領は、そんなウクライナの足元を見ており、交渉を焦らず、ロシアの要求を強める展開になっています。

トランプ大統領への書簡©️日本テレビ
トランプ大統領への書簡©️日本テレビ

吉田トランプ氏の1期目の施政方針演説を振り返ると、自らの主張は抑え気味で、まだ米国民の結束を呼びかけていました。今回は、バイデン前大統領を「史上最悪の大統領」と呼ぶなど、自らの支持者へのアピールに時間を費やしました。本来なら、中国やロシアの権威主義に対し、民主主義を大切にする国々が協力しなければならない局面です。その中心となるはずの米国が、団結ではなく、分断の方向に進んでいることは残念です。

施政方針演説©️日本テレビ
施政方針演説©️日本テレビ

トランプ氏のディールは、最初に強烈なことを言って、相手がひるむと、さらにふっかける。相手が譲歩して、自らの利益や手柄を得ることができれば、矛を収めるという交渉術です。ロシアや中国は、トランプ氏のやり方をかなり研究しているように思います。米国と協調したい国々の方が苦慮している現状を憂慮しますし、中国やロシアに付け入る隙を与えます。トランプ氏は、中国を最大の競争相手と考えています。そうであるなら、米国の同伴者であるはずの同盟国や同志国を戸惑わせる振る舞いは、米国の優位を自分から下げていると思います。

伊藤トランプ氏は、方針を一度決めたら、ブレずに突き進むわけではありません。相手や状況を見て、方針や対応を変えます。予見できないところにも世界は戸惑うわけです。笹川平和財団上席フェローの渡部恒雄さんは、巧みかどうかは別にして、そのアップダウンを含めて、トランプ劇場は構成されていると話されました。日本や先進7カ国(G7)の各国は、トランプ氏の態度が変化するタイミングをうまく見計らって、悪くない方向に米国を導いていく戦略が求められているのではないでしょうか。真正面から言っても、なかなか届きません。

関税政策も動くと思います。関税で米国の経済を立て直すと言いますが、米国の物価は上がります。それを米国の消費者が支払うことになり、米国の経済にプラスではありません。渡部さんは、市場の動揺も続くようなら、来年の中間選挙に向けて、トランプ氏は調整してくると指摘されました。トランプ氏が軌道修正するまで、粘り強く交渉する必要があります。

先月の関税合戦©️日本テレビ
先月の関税合戦©️日本テレビ