《ショパン、フランク:チェロ・ソナタ集》ゴーティエ・カピュソン&ユジャ・ワン

ソリスト同士のアンサンブルはエキサイティング

ソリストとして活躍する演奏家同士のアンサンブルには、独特のエキサイティングな魅力がある。どちらかがサポート役に徹することのない、丁々発止のやりとり。主張のはっきりした表現と鮮烈な音の絡み合いが、おもしろい。

ヴァイオリニストの兄とともに若い頃から注目され、精力的な活動を続けてきたフランス生まれのチェリスト、ゴーティエ・カピュソン。卓越した演奏技術と奔放なスタイルで人気を集める中国生まれのピアニスト、ユジャ・ワン。第一線で輝く同世代の2人は、たびたびデュオによる共演を重ね、今や練習がいらないほど自然と呼吸が合うという。

今回2人が録音したのは、まず弦楽器の定番レパートリーであるフランクのチェロ・ソナタ。チェロが豊かに香るような主題を奏で、大きく開く花冠を思わせるピアノが続く。古典的な形式に沿って書かれた作品が、目一杯の華やぎをもって奏でられる。

ショパンは、ピアノに次いでチェロという楽器を好んで曲を書いたが、本録音にはその2曲を収録。作曲家若き日の〈序奏と華麗なるポロネーズ〉ではみずみずしい音が響き、最晩年のチェロ・ソナタでは故郷への慕情がにじむ深い音が鳴らされる。カピュソンが朗々と歌ったあとに、ユジャ・ワンの輝かしい音が跳ね、ピアノの詩人と呼ばれたショパンの室内楽曲らしい魅力が伝わる。

フィナーレを飾るのは、ピアソラの〈ル・グラン・タンゴ〉。両者の冴え渡る技巧が、タンゴの躍動感と濃密な情感を見事に表現する。実際にダンスをしても絵になりそうなスタイリッシュな2人ということも手伝って、聴いていると、艶やかな男女の踊り手の姿が目に浮かんでくる。個性がぶつかり合い、手を取り合う演奏を堪能できるアルバムだ。

《ショパン、フランク:チェロ・ソナタ集》
ゴーティエ・カピュソン&ユジャ・ワンショパン
ワーナー 2800円

****

 

《ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第1番、第2番》川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝トリオ

結成10周年を記念した2つのアルバム

ヴァイオリンの川久保賜紀(たまき)、チェロの遠藤真理、ピアノの三浦友理枝。彼女たちもまた、同年代のソリストが集うトリオとして共演を重ねてきた。今回、結成10周年を記念して2つのアルバムをリリースした。

一つは、20世紀ソ連の作曲家、ショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲集。女性らしく麗しい容姿を持ちながら、芯が強くさっぱりした性格の3人が奏でるショスタコーヴィチは、パワフルで鮮烈、とても魅力的だ。

10代の初恋の経験から生まれた〈第1番〉では、若き想いに寄り添ったロマンティックな音楽が紡がれる。続く〈第2番〉はその約20年後に書かれたもの。悲痛な胸の内を絞り出すように始まるこの曲は、ショスタコーヴィチが親友の急逝の報を受けて作曲した。3つの楽器がかわるがわる主役を務めるだけに、名手が集うアンサンブルの美点が生きる。

《ピアノ三重奏 坂本龍一曲集》川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝トリオ

 

同時にリリースされたもう一つのアルバムは、坂本龍一の作品集。映画『ラストエンペラー』や『戦場のメリークリスマス』などでおなじみの曲を、坂本自身がピアノ、ヴァイオリン、チェロによる三重奏に編曲したもの。

これまで坂本龍一トリオ以外が演奏することのなかった楽曲の譜面を、坂本本人から借り受け、録音するに至った。3人の繊細で伸びやかな演奏技術により、耳馴染みのある曲に新しい生命が吹き込まれている。

互いの音楽性を理解した今、より深く作品を掘り下げられるようになったという彼女たち。10年間、演奏家として経験を積み、また私生活の変化を経つつ、仲の良い友達同士の感覚で共演を続けてくることができたと話す。楽器による対話が、そんな彼女たちの充実した関係性を物語っている。

《ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第1番、第2番》
川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝トリオ
エイベックス 3000円
《ピアノ三重奏 坂本龍一曲集》
川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝トリオ
エイベックス 2000円