《フロム・ディス・プレイス》パット・メセニー

 

歌詞のない世界で想像の羽根を伸ばして

ギタリストのパット・メセニーが、近年のライヴ・メンバーによるカルテットにオーケストラを加えた編成で、新作《フロム・ディス・プレイス》を発表した。自身のグループを結成した時から「オーケストラのようなサウンドをもつ」と評されてきたが、現在のカルテットのために曲を書き下ろし、オーケストラと共演するアルバムを制作したのである。このアルバムが、ジャズ界を超えて大きな話題になるのも当然だろう。パットに、今作について話を聞いた。

「今のメンバーは、世界最高峰のドラムス、アントニオ・サンチェス。2016年から加入したイギリス出身のピアニスト、ギレルモ・シムコック。そして中国にルーツをもち、マレーシアとオーストラリアで育ったベース奏者、リンダ・メイ・ハン・オウだ。このカルテットのために書き下ろした曲が10曲たまったので、16年12月にNYのアバター・スタジオでレコーディングした。初日のレコーディングを終えてみて、作品にするにはオーケストレーションやさらなる音の広がりが欲しいと思ったんだ」

それからパットは1年かけてオーケストレーションを書き、17年12月にハリウッド・スタジオ交響楽団とレコーディング。さらにミシェル・ンデゲオチェロ(ヴォーカル)やグレゴア・マレ(ハーモニカ)、ルイス・コンテ(打楽器)をゲストとしてスタジオに呼び、録音を続けたという。そしてここに、壮大にして美しいオーケストラとの共演作が完成したのだ。

サウンドの厚みと迫力が素晴らしい冒頭の〈アメリカ・アンディファインド〉については、次のように語っている。「ぼくは人類の1万年の歴史よりも、まだ十分に解明されていない25万年前より以前の歴史に興味がある。そんな視線をもって作曲し、演奏した」。

そして、パットのアルバムではめずらしくヴォーカルを起用したタイトル曲の美しさにも注目したい。ベーシストとしても名高いミシェル・ンデゲオチェロの歌声とパットのギターの重なりが、どこまでも優しい。この曲にある“間”もパットの特徴のひとつだ。

「ミズーリ州生まれのぼくにとって、故郷にあった広大な空間が、音楽の“間”を生むことの助けになっている。オーケストラとの共演で来日公演ができたら嬉しい」と、パットは語っていた。筆者も来日の実現を心から願っている。

《フロム・ディス・プレイス》
パット・メセニー
ワーナー 2500円

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《ピアノ・パーティ》国府弘子

 

還暦を祝う24作目のアルバム

人気ピアニスト、国府弘子が還暦を祝う24作目のアルバム《ピアノ・パーティ》をリリースした。国府のピアノは実にパワフルで、クラシック、ラテン、タンゴ、J-POPと縦横無尽にさまざまなジャンルの曲を取り上げ、奏でる彼女の音楽的視野の広さを示した作品になっている。また、長年組んでいる八尋洋一(b)、岩瀬立飛(ds)もまたジャンル不問ゆえ名トリオなのだ。

〈リボーン〉では八尋の歌うようなエレクトリック・ベースが、E・エルガーの〈威風堂々〉を題材にした〈リスペクタブル〉では岩瀬の自在なドラミングが光る。また、〈アディオス・ノニーノ〉はタンゴの改革者アストル・ピアソラが自身の父親の死に際して作曲した名曲だが、日本のタンゴ界を牽引する小松亮太のバンドネオンが情熱的だ。

さまざまな人生の局面と多様なジャンルの曲を重ね合わせた選曲について、「ジャンルを超える選曲を恐れなくなりました」と、国府本人も語る。次作では、すぐれたオリジナル曲をもっと聴いてみたいと筆者は思った。

この2作のように、インストゥルメンタル・ミュージック(ヴォーカルのない曲)は、歌詞に限定されることなく、聴く者が自由に想像の羽根を伸ばせる点が素晴らしい。

《ピアノ・パーティ》
国府弘子
ビクター 3000円