死にゆく人を見つめる写真集がもたらすもの
日々をむだにしないよう、自分を律して生きたいと思うが、なかなかうまくいかない。それは、死が身近ではないせいだ。死はいつか必ず訪れるもの、でも当分はやってこない。まず親を看取るのが先だから。そんな驕りがあるのだろう。
でも、この写真集にはガツンとやられた。自分がもうすぐ死ぬことを明確に意識し、終末ケアを受けている人たち。それなのに、かれらの堂々とした表情はなんだろう。晴れがましさすら感じる。
もちろん、やつれた人や苦しそうな人もいるのだが、全体として「自分はここに存在しているよ。ちゃんとカメラを見ているよ。きょうの記念に写真を残そう」と言っているような感じを受けた。
ひとりひとりの自筆の手紙も撮影されている。家族への、そしてこの世へのお別れの手紙だ。訳もついているが、それほど複雑ではない英語だし、文字も読み取りやすいので、ぜひ読んでみてください。
インタビューで人生模様を語っている人もいる。かつて麻薬の常習者だったマイケルは、自分を見放さなかった父や妻への感謝を語り、自分より不幸な人のために働いてその人たちの幸福を祈るようになった自分を語り、〈おれは満足し、平和で、落ち着いている。不安も恐怖もない。ただ、興奮している。何かが泡みたいに湧きあがってくる。結婚する直前みたいな感じだ。長年にわたってまいてきた種子を、いま収穫しているんだ。愛の種子〉という。なんと立派な人生の総括ではないか。
死にゆく人を見つめることは、よりよく生きることにつながる。死は「負け」ではない。いつか自分も、死を目前にして、自分の人生の意味や価値を語れるようになりたい。
『「その日」の前に Right,before I die』
写真・文◎アンドルー・ジョージ
訳◎鈴木晶
ONDORI-BOOKS 2200円
写真・文◎アンドルー・ジョージ
訳◎鈴木晶
ONDORI-BOOKS 2200円