
謝罪から未来志向へ
「謝罪談話的なものからは脱却しなければならない。同時に、日本は民主主義を大切にして、これからもしっかり踏み固めていく。そして、アジア諸国の脅威にならない国として進む意思を、未来志向で明らかにすることは必要ではないか」=寺島実郎氏
伊藤徹戦後の日本は、先の戦争の教訓を踏まえながら、世界で責任ある役割を果たそうと模索してきたと思います。戦後50年、60年、70年の節目の8月には、時の首相が談話を発表してきました。石破首相(当時)も意欲を示しましたが、政権基盤の弱さから、談話は見送りました。8月14日の放送では、石破氏と意見交換してきた寺島実郎・日本総合研究所会長を迎えて、日本の針路を考えました。
伊藤俊寺島さんによると、石破氏の問題意識は、折り合いの悪かった安倍元首相による70年談話を否定することではなく、なぜ当時の日本の政治システムが戦争の歯止めとして働かなかったのか、というところにあったと言います。統治の制度さえあれば、戦争を止められるわけではありませんが、制度に欠陥があるのに放置することは無作為になります。こうした検証自体は大事なことだと思います。

時の首相が自らの問題意識を語ることは、どのような発表の形式であったとしても、国民と諸外国は時の政府の意思として受け止めます。その後の政権を縛ることになるという考え方もありますが、リーダーのメッセージを土台にして議論を重ねることも意味のあることではないでしょうか。
伊藤徹70年談話では、侵略という言葉を入れるのかどうかで論議になりました。番組に同席した日本テレビの伊佐治健解説委員長が振り返ったように、当時は中国、韓国、アジアの国々が、日本の戦争責任の議論をじっと見ていました。10年たった今、安全保障一つとっても、中国の方が覇権主義的な振る舞いを強めています。頼みの米国は内向きになり、日本の置かれた状況は様変わりしています。

伊藤俊寺島さんは未来志向とおっしゃいました。私たちの足元を見ても、大衆扇動型のポピュリズムが広がっており、民主主義はかなり不安定になっています。日本は戦後、安定した政治を誇ってきましたが、失われかけているのではないかと懸念します。これからどのように歩んで、世界でどのような責任を果たすのかを自ら考えることは大切なことだと思います。

伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。

伊藤徹也/いとう・てつや
調査研究本部主任研究員
広島県出身。京都大学総合人間学部国際文化学科卒業。1998年読売新聞社入社。浦和支局、政治部次長などを経て現職