専門家が独自の目線で選ぶ「時代を表すキーワード」。今回は、経済と商品の専門家が、「介護保険料算出ミス」と「MUJI HOTEL」を解説します。

介護保険料算出ミス

算出ミスが発覚した3月末時点で、各健保組合は19年度の予算編成を終えていたため、今後は不足分解消に対応できない組合が出てくる懸念があるという

 

「第二の税金」で
厚労省の不手際が発覚

2019年1月に毎月勤労統計のデータ改ざんで揺れた厚生労働省ですが、介護保険料の算出ミスという不祥事がまた起きました。19年度に徴収する介護保険料が、本来よりも総額で約200億円不足するというのです。

現在、介護保険は、国と都道府県、市町村が税金で50%を負担し、あとの50%は保険料で賄われています。今回算出ミスが起きたのは、40歳以上の会社員・公務員が負担しているもの。会社員は勤務先の健康保険組合に、公務員は共済組合などに保険料を納め、「社会保険診療報酬支払基金」という厚労省の外郭団体を通して、市町村に交付される仕組みになっています。

今回のミスは、社会保険診療報酬支払基金が保険の加入者数を間違えて計算したために発生。本来ならば19年度の保険料は、17年度の加入者数「3110万人」を使って負担額を試算しなくてはいけなかったのですが、19年度の新規加入見込み数の「3210万人」で計算したために、ひとりあたりの徴収額が少なくなり、総額で約200億円の不足金が発生したのです。

ミスの影響として、各健保組合に対して介護保険料の追徴が発生することは必至。さらに、介護保険料は19年4月に値上げされたところが多く、たとえば協会けんぽの保険料率は、過去最高の1.73%。月収32万円なら年間6000円の値上げとなっていますから、さらに追徴が発生すると家計の負担も大きくなります。

厚労省はこのミスを1月下旬に把握していましたが、公表したのは約2ヵ月後。「第二の税金」とも言える財源なだけに、厚労省の不手際に厳しい目が注がれています。(荻原博子)

 

 

MUJI HOTEL

「MUJIHOTEL」の客室。備品はアロマディフューザーから歯ブラシ、パジャマまですべて無印良品製で、ショールームのよう。気に入ったら、同じビル内の店舗ですぐ購入可能だ(撮影◎北村森)

 

「無印良品」のホテルが
もたらした、新しい価値観

話題のホテルが2019年4月に登場しました。「MUJI HOTEL」です。無印良品を展開する良品計画の手になるホテルで、その場所は東京・銀座のど真ん中。

開業直後に泊まってみました。全79室のうち、半数以上を占めるのはダブルベッドの客室で、料金は2万9900円(税金・サービス料込)です。ダブルの客室が多いのは、ひとつはスペース効率を考えてのことでしょうし、もうひとつは海外からのカップルはダブルベッドを好む傾向にあるからかもしれません。

その空間には徹頭徹尾、無印良品のセンスが詰まっています。客室内の備品だけではなく、床や壁にあしらう天然木などアースカラーで統一された内装に至るまでがそうです。

ただ、面積は約25㎡とそこそこあるものの、室内幅はわずか2m10㎝と、なんとも細長い。同等の料金を出せば、ほかのホテルならもっとゆったりした客室がある。サービスも必要最低限で、手厚くはありません。

「MUJI HOTEL」はおそらく、既存のホテルの定石を覆す存在なのでしょう。客室に開放感は必須とか、接客の丁寧さは絶対とか、ホテル業界の常識とは違うところで勝負している感じ。「客室の広さより、そこに漂う空気感が重要」と言わんばかり。要するに思い切った取捨選択を図っているのです。

居住空間は狭いけれど浴室は広い。また、1800円(税込み)の朝食は値段に比して凝っている。ブッフェ形式ですが、郷土のおばんざいや、「蟹のフラン」といったしゃれた一品も。おそらく「平均点主義」ではこうはいきません。今の時代、割り切るところと譲らないところをしっかり踏まえた商品設計こそが勝負を分ける。それはホテルに限った話ではなくて、すべての商品分野に通じる話ですね。(北村森)