自分たちのことを歌うヒップホップアイドル

BTSが魅力あふれるグループであることはわかったが、ファンを多く持つK-POPグループはほかにもある。彼らが抜きん出て評価され、支持されている理由はどこにあるのだろう? 国内外の音楽事情に詳しい音楽評論家・作詞家の湯川れい子さんに聞いた。

「BTSは、結成前のオーディションの段階から違っていました。勝ち抜くための競争が過酷であることはほかのアイドルグループと同様ですが、彼らの事務所はヒップホップ、しかも自作のリリック(自分の主張や心情を表した歌詞)でラップができる人を集めて対戦させた。最初から、オリジナリティと表現力を持ち合わせた人材を選んでいたのです。その時点で、すでにほかのアイドルグループとは一線を画していたと言えるのでは」

ヒップホップとは、1970年代にニューヨークのゲットーと呼ばれる貧困地区で生まれた音楽ジャンルで、闘争的なまでの自己主張と強いメッセージ性が特徴だ。アイドルを、自我の表出よりも、ファンが求める姿を具現化することに注力するものだとすれば、正反対のジャンルだと言える。『BTSを読む』の著者であり、アメリカ・シアトルで暮らした経験を持つ音楽評論家・文化研究者のキム・ヨンデさんも、その相反するところに着目した一人だ。

「アイドルがヒップホップをやるのをよく思わない人が多いなかで、BTSがどんなふうにヒップホップをものにして《ヒップホップアイドル》になっていくのか。そこに興味を持ちました」