「それでも負けなかったし、ぶれなかったのは、自分がどういう人間かってわかっていたからかなぁ」

傷ついた時支えてくれたのは

会社を立ち上げる前の10年間は、『読売新聞』の読書委員として書評を書いていました。もともと本を読むのが好きで、テレビ局の楽屋や移動の車中ではいつも本を読んでいたけれど、それほど多読というわけではなくて。読書委員を務めていたおかげで、たくさんの本に出会えました。

2011年、読売新聞の担当の方が、「どうしても小泉さんに読んでほしい」と、大島満寿美さんの小説『ピエタ』を勧めてくれました。読み始めたら、止まらなくて……。

小説の舞台は18世紀のヴェネツィア。ヴァイオリン協奏曲「四季」で有名な音楽家のヴィヴァルディは、孤児を養育するピエタ慈善院で子どもたちに音楽を教えていました。時がたち、かつての教え子の一人で現在は院の事務方をしているエミーリアのもとに、ヴィヴァルディの訃報がもたらされ――そこから物語が動き始めます。

エミーリアもピエタで育った孤児なのですが、ある貴族の女性から「昔、ヴィヴァルディ先生の楽譜の裏に大切な言葉を書いた。その楽譜を探してほしい」と頼まれるんです。そして、運命に導かれるように、高級娼婦やヴィヴァルディの妹などさまざまな人と出会う。そこで生まれる、身分を超えたシスターフッドが本当にすばらしくて……ささやかな幸せを探し続ける彼女たちのけなげさに感動し、涙があふれてしまいました。

書評を書いた当時、ちょうど私は主人公と同じ40代半ば。私も彼女のように、「本当はあの時、傷ついた。心にトゲが刺さったままだ。でも、もう大人の私は痛い痛いと言ってはいられないから、気づかないふりをして前に進まなくちゃ」という感覚がありました。

それでも負けなかったし、ぶれなかったのは、自分がどういう人間かってわかっていたからかなぁ。自分が自分であることを証明するものは、記憶しかなくて、だから記憶に支えられたし、子どもの頃に素敵だなと思ったものにすごく助けられた。この本を読み終わり、改めてそんなことを考えました。