仲間総動員でなんとかしよう
こういう物語があることを、もっとたくさんの人に知らせたい。そのために私たち俳優ができるのは、それを立体的にすることです。映像では無理。イタリア人になれませんから(笑)。でも、舞台なら可能です。どの時代の、誰にでも、人間ではない概念のような存在にだってなれるのが舞台。「あぁ、舞台って自由だよなー」「いつかこの物語を舞台にしてみたい」と、読みながら考えていました。
そんなわけで会社を設立して間もない頃から、この作品の舞台化のために動いていました。実際、ある脚本家の方と具体的に話を進めていたのですが、残念なことにその方がご病気で他界されて。その後、劇作家で演出家でもあるペヤンヌマキさんが引き受けてくださり、満を持して2020年に上演することが決定。ところが今度はコロナで延期せざるをえなくなったのです。
すでに劇場を3週間おさえていたので、中止すればキャンセル料が発生します。2ヵ月ほどスケジュールを空けてくださっていた役者さんたちに、補償金も払いたい。「どうせ赤字になるなら、気持ちよく」と腹をくくりました。劇場はキャンセルせず、演劇、朗読、音楽などを日替わりで届ける企画に切り替え、『ピエタ』も朗読劇として上演しました。
社員3人しかいないので、最後はみんなボロボロ(笑)。でも私は、そういう時に止まっていたくないタイプだったんですね。劇場もスタッフも収入を絶たれているし、俳優やクリエイターたちは発表の場を失っている。だったら、仲間総動員でなんとかしよう、と。こういう時こそ「利他主義」でありたい。仲間ってすばらしいなと思いながら、3週間駆け抜けました。
「利他主義」については、フランスの経済学者で思想家のジャック・アタリ氏を取り上げたテレビ番組で知りました。その後、彼の本も読んで、「利他主義」の世界っていいなぁ、私もそうありたいなと思ったんです。
まぁ、補償金を払って中止にしていたら、もっと小さな赤字で済んだんですけど(笑)。でも、なんか気持ちよかったです。私は窮地に追い込まれると、落ち込んだりせずに奮い立つんだなぁ、と気づきました。