専門家が独自の目線で選ぶ「時代を表すキーワード」。今回は、経済ジャーナリストの荻原博子さんが、「郵便局の不祥事」を解説します。

被害の全貌がわからない大規模な悪質勧誘

かんぽ生命保険の不正販売が、多くの人に衝撃を与えています。

郵便局員が販売ノルマを達成するために、無理やり保険を乗り換えさせていました。顧客は新旧の保険の「二重加入」や、「無保険」の状態に置かれていたのです。その間に病気になると、保険が適用されないケースもありました。現在判明しているだけで、過去5年間で18万3000件もの不正販売が行われていたといいます。これから約3000万件の全契約について調査をするということですから、被害がどこまで広がるのか、想像がつきません。

しかも謝罪会見を見るかぎり、日本郵政の長門正貢社長、かんぽ生命保険の植平光彦社長、日本郵便の横山邦彦社長には当事者意識が見られず、謝罪はしたものの辞任する意思はないようです。

郵便局は、全国津々浦々に約2万4000局、銀行や信用金庫がないところにも必ずある。しかも、かんぽの保険は加入者の健康状態を告知書に記入するだけで入れるという手軽さ。

これだけ悪質な不正が蔓延したのは、「株式会社なのに利益が出ない」構造だからです。郵便局は、1枚62円のハガキを、どんな僻地にも届けなくてはならない「ユニバーサルサービス」を義務付けられています。ですから、経営を黒字にするためには、投資信託やかんぽ生命から委託された保険の販売手数料で稼がなくてはならない。商品販売には厳しいノルマが課されていて、これが無理な営業につながったと見られています。

今回の不祥事で、郵便局への信頼が失われました。厳しい逆風が続くことでしょう。