西側に引き寄せる努力

「食料を戦争の武器にするロシアの作戦は明らかに裏目に出ている。ウクライナの掲げる和平案に基本的に賛同する国が増えることは、ウクライナの外交を有利にするだろう」=廣瀬氏

「中国は、国際会議の趣旨に同意するというより、場をコントロールしたいがゆえに参加することがある。今回も、ある程度ロシアの代弁者になるために来ていた可能性がある」=高橋氏

飯塚もっとも、新興国や途上国は一枚岩ではないことに注意しなければなりません。それぞれが自国の利益に基づいて動いています。中国はロシア寄りの立場を崩していませんし、こうした新興国が集まる会合を、米国を中心とする秩序に対抗する国々を増やす枠組みにしたいと考えています。

ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのBRICsと呼ばれる5カ国は8月下旬、南アフリカで首脳会議を開き、イランやサウジアラビアなど6カ国を新メンバーに迎えるヨハネスブルク宣言を採択しました。貿易でドルを使わない自国通貨建て決済システムの促進が宣言に盛り込まれたことも注目されます。中国はドル決済に代わる人民元決済の国際化を目指していますし、ロシアも欧米による経済制裁の効果を弱めることができます。中国の習近平国家主席は、「加盟国拡大は歴史的な決定だ」と強調しました。

ただ、インドは、BRICsを反西側の枠組みにしたい中国の思惑とは距離を置きたいと考えています。インドは中国と国境紛争を抱えており、いざという時に備えて、欧米との関係が悪化することは避けたいはずです。ブラジルや南アフリカも、米国と中国の間でバランスを取ることを模索しています。主催国の南アフリカは、国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪容疑で逮捕状が出ているプーチン氏を対面で招くことはしませんでした。

吉田同感です。米国の地位が相対的に低下する中、中国やロシアは国際秩序に挑戦しようとしています。ウクライナ危機では、独自の動きを見せるグローバル・サウスの国々に注目が集まりました。経済は成長し、人口の多い国も少なくありません。国際的な問題が起きた時、こうした国々が調整の一端を担う場面は増えるでしょう。穀物合意を国連とともに仲介したのはトルコです。G20(主要20カ国・地域)首脳会議の今年の議長国はインドですし、来年はブラジル、再来年は南アフリカが務めます。ウクライナの和平実現には外交の力も必要です。

日本も、力を持ち始めた新興国とどう向き合っていくのかを考えなければなりません。グローバル・サウスの内実は、飯塚さんの指摘された通り、抱える事情も立場も異なる国々です。中国やロシアは反西側の枠組みにしたいでしょうが、そうした徒党を組むような集まりにしてはなりません。日本は5月の広島G7サミットに、グローバル・サウスの首脳を招きました。こうした国々には、欧米流の民主主義や価値観を押しつけられることへの抵抗もあります。日本はこれまで、東南アジアやアフリカの諸国に対し、それぞれの国の事情に応じた丁寧な支援を続けてきました。こうした姿勢がいっそう大切になるのではないでしょうか。

解説者のプロフィール

飯塚恵子/いいづか・けいこ
読売新聞編集委員

東京都出身。上智大学外国語学部英語学科卒業。1987年読売新聞社入社。 政治部次長、 論説委員、アメリカ総局長、国際部長などを経て現職。

 

吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員

1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。

 

提供:読売新聞