概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める飯塚恵子編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

グローバル・サウスと呼ばれる新興国や途上国が存在感を高めている。ロシアのウクライナ侵略でも、サウジアラビアは8月上旬、和平実現に向けた国際会合を主催した。グローバル・サウスの動きは国際関係にどう影響するのか。防衛省防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏と慶大教授の廣瀬陽子氏を迎えた8月7日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

新興国の動向高まる存在感

許容できない食料危機

「ロシアが穀物合意から一方的に離脱したことで、食料危機が深刻な問題になっている。『この戦争は早く終わらせなければならない』という意識を多くの国が持ち始めた」=廣瀬氏

「ロシアに対し、欧米と協調して圧力をかける路線は取らないが、戦争をやめさせることには関心があるという国々も、サウジアラビア主催であれば参加しやすくなる」=高橋氏

飯塚ウクライナ侵略の終結に向けた道筋を話し合うサウジアラビアの会合には、40を超える国や機関が参加しました。6月にデンマークで開かれた初会合に比べ、参加国は3倍近くに増えました。初会合を欠席した中国をはじめ、インド、南アフリカ、ブラジルなども参加しました。主催国サウジアラビアは、ロシアとウクライナとの間で様子見の立場を取っています。同じような立場を取るグローバル・サウスの国々は出席しやすくなりました。

こうした国々の多くは、ロシアを非難する国連決議に賛成せず、先進7カ国(G7)を中心とする経済制裁にも加わりません。ウクライナ支援をめぐって、「踏み絵」を迫られる形になっても、欧米とは距離を置いています。新興国や途上国はこれまで、「気候変動問題や感染症対策に取り組んでほしい」と先進国に対し声を上げることはありましたが、存在感がここまで鮮明になったことはありません。

吉田サウジアラビアは産油国としてロシアと関係があります。インドはロシアから武器を輸入しています。アフリカ諸国はロシアやウクライナから穀物を輸入しています。グローバル・サウスの国々には、そうした実利的な事情もあり、ロシアと欧米の対立とは距離を置いてきたと言えます。

それでも、サウジアラビアの会合では、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重することや、ロシアによるウクライナ領土の併合を承認しない立場などを、多くの参加国が訴えました。サウジアラビアはロシアを会合に招きませんでした。ロシアの侵略が1年半を超えて長期化する中、グローバル・サウスの国々にも不満がたまっているのではないでしょうか。こうした会合に中国も参加したことは、プーチン大統領への圧力になるはずです。

軍事脅威下と宣言した6港周辺©️日本テレビ

飯塚南アフリカのラマポーザ大統領は7月、ロシアで開かれたロシアとアフリカ諸国の首脳会議に出席し、ロシアがウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する国際合意から離脱したことに不快感を示しました。プーチン氏は食料の確保が難しくなったアフリカの6カ国に対し、穀物を無償提供すると述べましたが、ラマポーザ氏は「我々は贈り物をもらいに来たのではない」と言い返しました。グローバル・サウスの国々も、自分たちの国の存立が脅かされるような事態を見過ごすことはできません。サウジアラビアの会合に多くの国が参加した背景には、こうした不満があります。ロシアの振る舞いを支持しているわけではありません。