良くても悪くても、どんどん変えていく
チャレンジしてみたい――。
その思いに突き動かされて、大谷は道を切り開いてきた。メジャーでプレーする中でも、彼の「内なる声」は変わらない。海をわたり2年目のシーズンを終えた19年11月もまた、大谷は「挑戦」という言葉を口にしていたものだ。
「良くても悪くても、どんどん変えていくっていうのは良いところじゃないかなと思いますね。なんて言うんだろう……現状を守りにいかないという性格ではあるので、まあ、すごく良い状態の時でも、それを維持していこうというよりも、それを超える技術をもう一つ試してみようかなと思う。挑戦してみようかなというマインドがあるのは、得なところだと思います」
人は変化に不安を抱き、その先にある失敗を恐れて前へ踏み出せない時がある。誰もが持つ臆病な一面だ。現状に満足していたり、その時に周囲からの大きな評価を得ていたりすれば、なおさら保守的な思考が生まれるのは当然のことかもしれない。
大谷もまた、新たな道を切り開くことに、一切の不安がないわけではないだろう。事実、「まったく違う環境に行くということは、どの分野でも不安なことが多いと思う」と語っていたことがあった。その一方で、彼はやはりこう言うのだ。
「さらに自分自身がよくなる可能性がそこにあったら、僕はチャレンジしてみたい。『やってみたいな』と思うタイプの人間なので」
目指すべきものの領域を超えたい
彼のそんな感性や思考が、濃密な時間とともに確かなものになっていったのが高校時代の3年間だ。岩手県の花巻東高校野球部を率いる佐々木洋監督との出会いは、大谷にとって大きかった。言葉が持つ力を信じ、子供たちへの言葉かけを大切にする恩師から多くのことを学んだ。
佐々木監督はこれまで、歴史上の人物や出会った人々の言葉に影響を受けてきた。先人たちが語り、後世に残されてきた言葉を本などで学ぶことが多いという。そこで感じるのは、言葉には魂があるということ。いわゆる「言霊」というものだが、一つ一つの言葉に自らの魂を揺さぶられることがあるのだという。
佐々木監督は、影響を受けた言葉をすぐに子供たちに伝える。高校時代の大谷もまた、佐々木監督から伝え聞いた言葉に魂を揺さぶられた。花巻東高校野球部の不変のチームスローガンでもある「決してあきらめない」という言葉もそう。