対立する2人の女王の運命は
スコットランド女王メアリ・スチュアートとイングランド女王エリザベス1世。実在した2人の女王の運命を描いた古典的歴史劇『メアリ・スチュアート』が、森新太郎の演出で上演される。上演台本は、18世紀ドイツの巨匠フリードリヒ・シラーの名作を20世紀イギリスの詩人スティーブン・スペンダーが脚色したものだ。
近年日本では、同名の2人芝居(女王2人とそれぞれの召使いを女優2人が演じる)の上演機会が多い。しかしこれは、現代イタリアの女性作家ダーチャ・マライーニがフェミニズム的視点からシラーの原作を自由に翻案した、オリジナルともいえる作品だ。
それに対して本作は、登場人物二十数名の大群像劇。女王の対立に周囲の人々の思惑がパワフルに絡み合い、歴史の裏面がダイナミックに展開する。権力者の孤独、政争に血道を上げる政治家や軍人、貴族たち……現代に生きる私たちにも無縁ではない世界が広がるだろう。
時は16世紀末。政変で祖国を追われたスコットランド女王メアリは、遠縁のイングランド女王エリザベス1世を頼るが、19年の長きにわたり幽閉されてしまう。エリザベスが、イングランドの正統な王位継承権を持つメアリを恐れたのだ。その間、2人は顔を合わせていない。やがてメアリに、エリザベス暗殺計画に関わったという嫌疑がかけられ、彼女は死刑判決を受けることに。
物語は、そんな状況から始まる。メアリに恋心を抱く青年モーティマーは彼女を助けようと奮闘し、女王2人から寵愛を受けているレスター伯は策を弄する。さらに大蔵卿バーリー、国璽尚書(こくじしょうしょ)タルボットなど、さまざまな男たちが駆け引きをくり広げる。処刑の日が刻々と迫るなか、メアリは身の潔白を訴え、エリザベスは処刑を断行するか否かで苦悩するが……。
メアリは長谷川京子、エリザベスはシルビア・グラブが演じる。さらにメアリの乳母ハンナには鷲尾真知子、モーティマーには三浦涼介、レスター伯には吉田栄作と、納得の俳優たちが並ぶ。エッジの効いた演出で歴史劇を活性化する手腕に長けた森が、彼らの魅力を最大限に引き出し、戯曲の現代性を浮き彫りにするはずだ。
2020年1月27日~2月16日/東京・世田谷パブリックシアター
作/フリードリヒ・シラー 上演台本/スティーブン・スペンダー
翻訳/安西徹雄 演出/森新太郎
出演/長谷川京子、シルビア・グラブ、三浦涼介、吉田栄作、
鷲尾真知子、山崎一、藤木孝ほか
☎03・5432・1515(世田谷パブリックシアターチケットセンター)
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匂うような生活感がにじむドラマになるはず
社会の片隅に生きる人々の滑稽だが愛すべき日常を、ユーモアを交えながら描き出す――そんな作品で人気の赤堀雅秋が、大森南朋、田中哲司と組んで、新作を上演する。約4年前、赤堀作の『同じ夢』に参加したメンバーが、「とにかく楽しかった」と再びタッグを組むことに。ヒロインに長澤まさみを迎え、さらに江口のりこ、石橋静河と華やかな顔ぶれが並ぶ。とはいえ赤堀のこと、寂れた肉屋を舞台にした『同じ夢』と同様、匂うような生活感がにじむドラマになるはずだ。タイトルは、「ヤクザだろうが、子供だろうが、警察だろうが、老人だろうが、女子高生だろうが、みな等しく“神の子”である」の意とか。どんな世界が広がるか、固唾を呑んで待ちたい。
神の子
12月15~30日/東京・本多劇場
作・演出/赤堀雅秋
出演/大森南朋、長澤まさみ、でんでん、江口のりこ、石橋静河、永岡佑、
川畑和雄、飯田あさと、赤堀雅秋、田中哲司
☎03・6276・8443(プラグマックス&エンタテインメント)
※名古屋、福岡、広島、大阪、長野、静岡公演あり
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近隣で起きた火事から逃れ…
とある団地の一室。部屋の主である路子(井上加奈子)が老人・広満(小林勝也)、青年・ケン一(中尾諭介)と一緒にいる。そこに、近隣で起きた火事から逃れ、哲央(平田満)、藍子(増子倭文江)夫妻と娘・有季(多田香織)の一家が避難してきた。炎が迫るなか、6人は一夜をともに過ごすことに。「いつの間に私たち、こんなところまで来てしまったの」……。しだいに明らかになってくる互いの事情と心模様。桑原裕子の、シビアだが温かい目線が、人生の機微を繊細に描き出す。穂の国とよはし芸術劇場開館5周年記念として2017年に初演され、読売文学賞戯曲・シナリオ賞などを受賞した傑作を、当時と同じキャストで再演する。
荒れ野
12月13~15日/愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
12月18~23日/東京・下北沢ザ・スズナリ
作・演出/桑原裕子(KAKUTA)
出演/平田満、井上加奈子(以上、アル☆カンパニー)、増子倭文江(青年座)、
中尾諭介(In the Soup)、多田香織(KAKUTA)、小林勝也(文学座)
☎0532・39・3090(プラットチケットセンター)